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【柴崎竜人が語る】美少女を娘に迎えての共同生活、衝撃の展開へ

プラネタリウムが謎を解く、“家族”と“神話”の物語、「三軒茶屋星座館」シリーズ。

春の星座は「出会い」と「別れ」。美少女・月子の秘密がいよいよ明かされる──。最高潮の盛り上がりをみせる第3弾、
『三軒茶屋星座館 春のカリスト』にこめた思い、次回作についてなど、著者・柴崎竜人さんに聞きしました!

2016.03.31
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柴崎 竜人(しばざき・りゅうと)

1976年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。東京三菱銀行退行後、バーテンダー、香水プランナーなどを経て、小説「シャンペイン・キャデラック」で三田文學新人賞を受賞し作家デビュー。映画「未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~」、ドラマ「レンアイカンソク」など脚本も多数手掛ける。近著に「三軒茶屋星座館」シリーズ、『あなたの明かりが消えること』『あした世界が、』など。本書は「三軒茶屋星座館」シリーズ第3作。

「三軒茶屋星座館」特設サイト  http://seizakan.com/

“家族”の関係に変化……シリーズ3作目にして衝撃の展開!?

著者写真

──『三軒茶屋星座館』のシリーズ第3作ということですが、今回のテーマは?

『冬のオリオン』『夏のキグナス』という前2作からの流れがあった上で、自分でも予期していなかった物語を書きたいと思っていて。『春のカリスト』のテーマはこれまでと変わらないんですけど、これまでの2作とは違う場所から登場人物たちに光を当てるような話になっていると思います。

ただ、今回は第1章からかなり苦労しまして、書いては書き直し、書いては書き直し……。今までの3倍は時間がかかったかもしれない。僕自身、登場人物につらい思いをしてほしくない、ハッピーでいてほしいって気持ちがすごく強いんですよね。それでも、今まで以上に物語を深化させるために、時間をかけて登場人物たちの葛藤を描きました。

──かなり衝撃的な展開だったと思いますよ!

よかった(笑)。いい意味で期待を裏切りながら読者の皆さんを楽しませたいって思っているので、そう言ってもらえてうれしいです。実は、書き始めるときにラストシーンの一文だけは決めてたんですけど、きちんと想像を超えられるか半信半疑だったんです。だから、そういう評価はほんとうにうれしい。

星のようにひとりで生きる人間が、星座のようにつながったとき、新しい形の家族になる

──この作品は「血のつながりがない親子」を通じて家族のあり方について問いかけていますね。

昔は3世代が同じ家に住んでいるような大家族が一般的でしたが、それがだんだん両親と子どもだけの核家族となり、今では一人暮らしが当たり前の「核」だけになってきている。そんな時代を生きる僕らが、どうやって家族を取り戻していくのかがこの作品のテーマのひとつだと思っています。主人公・和真と双子の弟・創馬、2人とは血がつながっていない“娘”の月子による共同生活。この3人の関係ももちろんですが、「三軒茶屋星座館」(和真が経営するプラネタリウムバー)の常連客たちも含め、血のつながりのない人たちが身を寄せ合って生活していく新しい家族像を描きたかったんです。

またそれとは別に、星座をテーマにした物語を作りたいとも思っていました。星は単体だと点でしかないけど、それが線で結ばれてひとつの星座になった瞬間に、奥行きがわあっと広がります。そこにいろんなエピソードが生まれるんです。家族もきっとそういうものだと思うんですよね。核である一人ひとり(=星)が、何かしらの線で結ばれたとき、家族という「星座」になることで奥行きが広がる。そこに物語が生まれる。各章で和真が語る星座とそれにまつわるギリシャ神話は、その象徴だと思います。

ユーモアあふれるギリシャ神話、単行本にはおまけ要素も!

──そのギリシャ神話のシーンは、かなり「シモネタ」を交えてきて、コミカルな演出になっていますね。

ユーモアは物語の大事な要素だと思っています。ユーモアこそが感情の基準点で、そこをちゃんとプロットできれば他の感情との距離も測れる。逆にユーモアのない悲しい話や怖い話には、僕はフィクションとしてのリアリティーをあまり感じないんです。ただ、読者の方にクスッと笑ってもらうのはとても難しいことで、和真の語りのシーンでも、「本当にこれはおもしろいんだろうか」と自問自答しながら、もっとおもしろくしようと思いながら書いています。笑いって、実際にしゃべるのと活字で表現するのとではまったく違うんで苦労しますね。微妙な間の取り方とか、すごく考えます。あと、あんなにシモネタ入れちゃって大丈夫なのかなって心配でしたけど……(笑)。

──ユーモアと言えば、序章が「前説」のようになっていて、大神ゼウスと女王ヘラが漫才コンビみたいなトークで作品案内をするという……。

前2作を読んでない人でも楽しめるようにと(笑)。本当は1作目の『冬のオリオン』、2作目の『夏のキグナス』と順番に読んでもらいたいですし、3作目から読み始めるってことを想定して書いているわけではないんですけど、たまたまカバーを気に入って買ってくれた人がいたら、そういう人でもすんなり入ってこれるようにするにはどうしたらいいのかなーって。三軒茶屋で編集者と酔っぱらいながら考えました(笑)。

「これまでのあらすじ」を付けようかって話もあったんですが、それだと遊び心がなくておもしろくない。前2作とも読んでいる人は、同じ話をまた聞かされてつまらないだろうし。そこで、これからショーが始まるって感じを楽しんでもらえるようにと考えたのが「前説」だったんです。イメージとしては、僕が子どものころにやっていたアニメ『魁!男塾』の次回予告。あれって、次回予告の映像は流れてるんだけど、全く関係ないことをしゃべってるんですよ。全然関係ない自己紹介が入っていたりして。あの時代のアニメの次回予告って結構むちゃくちゃで、遊び心があって大好きでした(笑)。だから僕も、せっかくイントロダクションを作るのなら、それ自体を楽しめるものにしたいなって、あんな形になったわけです。

魅力的な人や店が線をつないで三軒茶屋の“星座”に……

──この作品は三軒茶屋という街を人情あふれる魅力的な街として描いているのが印象的ですね。もう少しオシャレな街というイメージでしたが……。

「三角州」というごく限られたエリアだけ昭和のイメージを残した街並みなんです。僕は街も「星座」のように捉えていて、星座館のあるビル、ビルのオーナーがやっている会員制の釣堀、和真たちが通っている銭湯、常連客たちがサンバの練習をしている公園……。それらの点がつながって一つの「星座」になったとき、そこに奥行きのある物語が生まれるんじゃないかと。

実際にもう20年くらい三軒茶屋に住んでいて、僕が好きなお店も作品の中にけっこう出てくるんですよ。先日も今回の『春のカリスト』に出てくる「武屋」っておそば屋さんにそばを食べに行ったんですが、おかみさんがたまたま僕がこの作品を書いてるって知っていて、「次回作に武屋を出させていただきました」って言ったら、小躍りするほど喜んでくれて(笑)。「武屋」は18年前の開店当初から通ってるお店。気取ってないから居心地がいいし、そばもおいしいんでおすすめですよ(笑)。

他にも和真が行く銭湯も実在します。富士見湯って銭湯に和真はよく通ってますけど、たまに出てくる八幡湯も僕が好きな場所です。めちゃくちゃ計算が苦手な番台のおばあちゃんがいて、かわいいんです(笑)。そういう愛すべき人や店がこの街を作っているのだと、日々思いながら生活していますね。

最近はテレビや雑誌で「オシャレな街」という紹介のされかたもするみたいだけど、実際にはまだイモっぽくてゴチャゴチャしている下町です。でも僕は計画的に造られた街より、その時代その時代で必要性に応じて、つぎはぎしながら残ってきたようなこういう街が好きなんです。

管理されすぎてないというか「後先考えずにいろいろ快適なものを追い求めたらこうなっちゃいました!」っていうほうが、人間味を感じるんですよね。三軒茶屋の「三角州」もそうだし、たとえば新宿の一角もそう。実はアジアなんてちょっと歩けばそういうところしかない。結局この街も、大きなアジアにある、小さな街のひとつなんだなと感じます。それこそ巨大な星座を織りなしている、小さな星みたいに。

そんな魅力的な「三角州」も、再開発で近い将来なくなってしまうんですよね。あの辺の長屋って防災上の問題などもあるのかもしれませんが、残念ですね。時代とともに街が変わっていくのは仕方ないんでしょうけど、また星座のように店と道と人とがつながって、新しい街が生まれればいいなと思います。

次作はいよいよ最終巻。自分自身も驚ける結末を考えています……!

著者写真

──『冬のオリオン』『夏のキグナス』『春のカリスト』ときたら次は秋ですね。こちらも発売が楽しみです。現在、執筆されているんですか?

はい、執筆中です。大筋は決まっているんですけど、和真がたどり着くまでの細かい道筋を、僕自身も書きながら「こんなバックグラウンドがあったんだ」「ここでこっちに行くんだ」と気づくことができるので、楽しんで書いています。きっと、自分自身も驚けるような話になるだろうと思います。

インタビュアー/長迫 弘
タウン情報誌・テレビ誌などの編集者を経て現在はフリーライター・編集者。エンタメ・スポーツから社会問題まで幅広いジャンルを手がける。

『三軒茶屋星座館 春のカリスト』書影
著:柴崎竜人

路地裏のプラネタリウムに、別れと出会いの季節がやってくる。店主の和真、弟の創馬に美少女・月子、そして、星座館に集う仲間たち。”家族”をめぐる物語は、いよいよ月子の秘密に迫っていく。
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