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1月19日に選考会が行われた第154回芥川賞を、本谷有希子著『異類婚姻譚』が受賞しました。
〈ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。〉 この印象的な一文から始まる物語は、安楽に暮らす専業主婦を主人公にして、不可思議で、危うく、でもどこか愛おしい「夫婦」という関係を軽妙に描いています。 選考会から2日後、受賞の興奮が冷めやらぬ中で、本谷さんにインタビューしました。
1979年生まれ。2000年に「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、作・演出を手がける。2011年、小説『ぬるい毒』で野間文芸新人賞、2014年、『自分を好きになる方法』で三島由紀夫賞を受賞。今回の芥川賞受賞で純文学新人賞の三冠作家になる。
──最初の一行が印象的ですよね。
![第154回芥川賞受賞作 本谷有希子著 異類婚姻譚](https://news.kodansha.co.jp/content/images/201602/797/9784062199001_2.jpg)
今回は、書き出しが決まるまで、書いては違う、書いては違うの連続で、まるで千本ノックを浴びているような気持ちになりました。まったく原稿が進まないまま、いつの間にか2年が過ぎていた。ところがある日突然、『これだ!』という手応えのあるものが書けたんです。それが、この小説の冒頭の一行 〈ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。〉 です。それからは速かった(笑)。3週間くらいで書き上げられました。
そうやって最初の一行を模索する中で書いた文章は、主婦についてのものが多く、私は今、どうやら主婦の話が書きたいらしいと思うようにもなりました。
──夫婦は顔が似てくるものだとよく言われますが、本谷さんもやはりそうなのですか?
![2016年1月19日 芥川賞受賞記者会見 本谷有希子](https://news.kodansha.co.jp/content/images/201602/797/0119motoyayukiko_2.jpg)
写っている顔を自動判別して、写真を仕分けしてくれるパソコンのソフトがありますよね。あれを使って持っている写真を整理したら、私の顔と判別されたものの中に、夫の写っている写真がたくさん入っていて、ちょっと驚いた。その経験が、小説の最初の一行につながったのだと思います。
──それにしても、2年間原稿が進まないというのは、穏やかではないですね。
じりじりと焦りが募ってきます。それでも進まなかったら、しばらく書くのをやめて遊んで暮らす。山に登ったり、キャンプに行ったり、親戚の子供と遊んだり、そのときにしたいなと思ったことをします。仕事のことは忘れて、歯を食いしばって遊ぶんです(笑)。それでまた原稿用紙に向かってみる。
──あっ、原稿用紙を使われているんですか?
![](https://news.kodansha.co.jp/content/images/201602/797/motoya6.jpg)
しばらくパソコンだったんですけど、今回は原稿用紙に鉛筆で書きました。ちょうど私のお腹が大きくなる時期で(本谷さんは昨年10月に長女を出産)、パソコンの画面をずっと見ながら書いて目を酷使すると、神経質な子供になってしまうかもしれないと思って(笑)。今回はゆったりした書き方でやろうと考えて、原稿用紙を使うことにしました。
──母親になって、何か変わったことはありますか?
娘にかまけてばかりで、娘依存症と言ってもいいくらい(笑)。あと最近は、目の前のこと、今立っている場所のことを大切にするようになりました。前は、上昇志向が強かったんですけど。
変わらないのは、普通のことが普通にできないこと。鍵をかけるとか、何かをやり終えるとか、そういうことが相変わらずできない。料理も作るけれど、結構失敗してしまいますね。
──そう言えば、今回の小説には、家事などすることのなかった旦那が、ある日会社を早退して帰ってきて、揚げ物を皿に山盛りに作り、主人公にふるまうシーンが出てきますね。
![](https://news.kodansha.co.jp/content/images/201602/797/motoya4.jpg)
思ってもみなかった相手から、予想外のものを食べさせられることって、ちょっと怖いですよね。しかも、どこか中毒性のある揚げ物……
そんな怖さや可笑しみが描かれた芥川賞受賞作を、ぜひお愉しみください。
「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」――結婚4年の専業主婦を主人公に、他人同士が一つになる「夫婦」という形式の魔力と違和を、軽妙なユーモアと毒を込めて描く表題作ほか、「藁の夫」など短編3篇を収録。大江健三郎賞、三島由紀夫賞受賞作家の2年半ぶり、待望の最新作!
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