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盲点を突く、しなやかでゆるぎない思考力
(著:姫野カオルコ)
エッセイの魅力の一つに著者の観察力(=発見力)、分析力と、取り上げた対象の味わい方の妙というものがあると思います。この本は「vs.」というタイトルが強烈なものの決して禁煙者と喫煙者の対立(?)を取り上げたものではありません。
「吸う人の中には「吸い方の汚い人、吸い方のなってない人」がいて、そういう人が「ちゃんとした吸う人」に迷惑をかけているのだと、私は強く言いたい。こういう人が煙草のイメージを悪くしていると強く言いたい。「吸う人」の本当の敵は「マナーの悪い吸う人」である」。
「タバコを吸いたい人は吸えばよい。吸いたくない人は吸わなければよい。」
という、実に至極真っ当な結論にいかに達しにくいか……その難しさを私たちによく気づかせてくれるものなのです。
ユーモアまじりに語られながらも、フィールドワークさながらの行動力があったればこその立証となっています。この姫野さんの論の進め方は素晴らしいです。どれだけ私たちが気がつかないところで見当違いな判断をしているのかがよくわかります。
「「飲食店でタバコを吸う人」に腹を立てるのはお門違いだ。怒りの矛先がまちがっている」「吸う人に罪はない」。
この小気味いい結論には脱帽するしかありません。
姫野さんの疑問符はタバコだけに向けられているものではありません。教育、奇妙な日本語、美容整形……と快刀乱麻、というのとは違うかもしれませんが、実によく私たちの盲点を突いてくれる文章であふれています。
でも、この本の魅力はそのような姫野さんのしなやかでゆるぎない思考力だけではありません。姫野さんの感受性、共感力の素晴らしさが感じられるエッセイも収められています。「マギー司郎」と「聖ヴェロニカの花に祈る」と題されたものです。
前者ではマジシャン、というより〝手品師という芸〟を一心に生きているマギー司郎さんへの熱い思いが伝わってきます。
「マギーさんの人柄が、あまりにリッチで愉快なために、「そうだね、ほんとだね」と、我が身の心の貧しさや醜さを箒で掃いてもらったようになり、泣けるのである」
マギーさんを「リッチ」と評するところに姫野さんの真髄があるように思えてなりません。
マギーさんの芸風を「心のともしび」という言葉を思い出す姫野さんですが、彼女の「心のともしび」を感じさせるのが終章の「聖ヴェロニカの花に祈る」です。
東日本大震災の被災者に向けて書かれているこのエッセイには人間のあらゆる感情がこめられているように思えてなりません。姫野さんの他者への優しい視線がこの章のすべての文章から感じられます。静かな音色が聞こえてくるようです。ぜひ耳をかたむけてください。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
note
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