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「ガダルカナル争奪戦は一面補給戦でもあった」そして「日本にとって、国力の及ばぬ戦場だった」のです
1942年8月7日未明、アメリカ軍の上陸戦が開始されました。これがガダルカナル島での死闘の始まりです。そして日本軍は3万人以上の将兵を南海の小島に投入しましたが、2万人以上の将兵が戦病死し、海軍も数多くの艦船を失うという結果に終わったのです。
“餓島”と異名をとるまでになったこの小島での戦闘、そこからからくも生還した将兵たちから聞き取った肉声と幾多の関係資料を渉猟し、それらをもとにこの死闘の全貌を描き出した傑作ドキュメントがこの本です。
“餓島”と異名をとるまでになったこの小島での戦闘、そこからからくも生還した将兵たちから聞き取った肉声と幾多の関係資料を渉猟し、それらをもとにこの死闘の全貌を描き出した傑作ドキュメントがこの本です。
冒頭近く、亀井さん元大本営参謀から聞き取ったこのような言葉を記しています。
「いくら相手が憎くても、負けると思いゃ、戦争、これ誰もやりゃせんですわね。実際われわれは、大体負けやせんと思うとったんですよ。アメリカ本土まで全部占領するようなことはでけんかもしれんが、負けはせん、とこう思うておった。そりゃ海軍はどう思うとったかは知らんが、陸軍は、そう思うとった。これが、この思想の病根が、じつはお尋ねのガダルカナルの反攻の際に出てくるんですよ。われわれ陸軍ちゅうのはね、アメリカを知らんのですよ、大体が」
ここにある無責任とも思える言葉に始まり、戦地の実態を調べ上げ、このドキュメントを書き上げた亀井さんはこうも書いています。
「ガダルカナル争奪戦は一面補給戦でもあった」
こう記したように、この戦闘は、兵站の重要性がとわれたものでもありました。兵站とは周知のように、戦場の後方にあって軍需品、食料等の供給や補充を行い、また連絡線の確保などにあたる機関のことです。これに課せられた任務は「必要なものを」「必要な時に」「必要な量を」「必要な場所に」(以上ウィキペディアより)間違いなく補給、輸送するということです。
つまりは確かな“後方支援”態勢つくりあげなければなりません。この“後方支援”はなにより戦闘の帰趨を制するものであり、軍隊が作戦行動、軍事行動を行う土台というものなのです。そしてそれは国力そのものの現れでもあります。
ところが当時の日本は
「軍隊そのものより、国力経済力というもんが、戦争の行方を左右するもんだという認識が、陸海軍、ともに少ない。全然ない、といったら嘘になる、なるけれども、さして強くない」(元大本営参謀の聞き取りより)
日本の戦争は「果たし合い」だと喝破した旧満洲国要人がいましたが(小林英夫著『日中戦争』より)、その戦争観はここガダルカナル争奪戦でも現れていたのではないでしょうか。一木支隊の死闘を知るにつれていっそうそのような思いにもかられました。
アメリカ軍に制空権、制海権を奪われた下での兵站……充分な補給ができなかった後方支援態勢、それらがおびただしい餓死者、戦病死者をうむことになったのです。
「要するにガダルカナルは、日本にとって、国力の及ばぬ戦場だったということだ」
亀井さんはこの大冊の最後近くにこう記しています。そしてさらに続けて……
「ここに露呈している事大主義、独善、些末主義といったもろもろの体質は、はたして当時の政府指導者および軍部だけのものなのだろうか、といった不安が私のなかに常にある」
「昭和二十年八月十五日を境にして、われわれ日本人の体質は一変しただろうか、という疑問である。そうした焦燥感が、私にこの長い記録を書かせたといえる」
亀井さんのこの問いかけにはっきりと「私たちは違う」という答えができるのでしょうか。
ここに描き出された戦場の姿、戦闘の姿、戦略(と呼べるものであったかどうかは疑問ですが)のありよう、政治の過ち、それらを忘れず学び直すためにも読み継がれていくべきものではないかと思いました。将兵たちの戦場・戦闘が決して勇ましいものではなく、いたずらに称揚されるものではないという思いとともに。
既刊・関連作品
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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