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佐藤さんの方法の原理論と実践論がちりばめられている

2015.04.01
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インテリジェンスの世界では「分析メモ(ワンテーマの情勢分析を正確かつ簡潔に記したもの)」というものが極めて貴重なものだそうですが、この本は佐藤さんの「分析メモ」とラジオ番組「深読みジャパン」(『邦丸ジャパン』のコーナー)での対談に、佐藤さんの発行するメールマガジンを加えて作られたものです。
3種類の視点が入ることで、佐藤さんの世界情勢への分析方法がとてもよくわかります。

佐藤さんの分析方法とはどのようなものなのか、それはこのようなところによくあらわれていると思います。TPPにふれて佐藤さんはこう言っています。
「私はTPPに賛成を表明してきました。なぜ賛成かというと、「自由貿易じゃないからだ」と言ってきました。(略)自由貿易というのは世界的な規模でやればいい。特定の地域で自由貿易をやるというのは、自由貿易という名前を使ってはいるけれど、実態は関税同盟、ブロック経済に近いんですよ」

佐藤さん自身も、聞いた人は一瞬怪訝に思うのではないかといっていますが、確かにTPPを表面的に考えると自由貿易協定に思ってしまいます。けれど、その裏には「中国を封じ込めていくという流れ」「日米安保体制とは軍事同盟であって、それと表と裏の関係になる」という意味が含まれているのです。このTPPに触れた時のテーマが「イスラム過激派に対抗するバチカン世界戦略」をということにも驚かされます。この話の流れは実際に本を手に取ってご覧になってください。佐藤さんの説得力、話の展開力にもきっと驚かされると思います。ユーモアといってはなんですが鳩山由紀夫さんへの苦言には笑ってしまいました。相変わらずの鳩山さんの行動に佐藤さんはきっと苦笑し続けているのではないでしょうか。、

取り上げられたテーマは世界情勢だけではありません。橋下徹大阪市長、猪瀬直樹東京都知事(当時)の失言から「話者の誠実性」(ユルゲン・ハーバーマスの言葉)について語り、その発言がどのように国家戦略に影響を与えるのか分析しています。
ちなみに「話者の誠実性」とは「この人は「本当に自分の思っていることを正直に話す人」なのか。あるいは「自分にとって利益になるように、戦術的な話をする人」なのか」ということです。話者がどのような誠実性を持ち、相手に感じさせるかによっては大きな、国家的な損失さえも生じることがあります。もちろんそのような人を支持する国民性も疑われることでしょう。

佐藤さんの深い宗教的知識に裏づけられたイスラム世界の分析、沖縄基地問題、北方領土問題、もちろん中国問題とさまざまな世界情勢を取り上げているこの本ですが、確かに表題どおり「10分で読む」ことはできます。けれどそれだけではない価値をこの本は持っていると思います。無知と偏見の違いといったことも触れられるなど、佐藤さんの方法の原理論と実践論がちりばめられているのです。佐藤さんの分析の結語を知るだけでなく、その寄って立つ方法を身につけたいと思わせてくれる一冊でした。この本の姉妹編『戦争の予兆編』も必読です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

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