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「残念」を愛でる文化に男女の違いはあるか
『10年代文化論』には、ネガティブな言葉であった「残念」という概念が、2000年代の終わりあたりを境にポジティブな意味合いに変化したことが、初音ミクやライトノベル、PerfumeやNegiccoなどのアイドルを例に書いています。
著者のさやわかさんは、『ユリイカ』のイケメン・スタディーズという増刊でも「残念なイケメンの時代」として文章を寄せています。その中には、mixiに「残念なイケメン」というコミュニティがあったことなども書いてあります。確かに女性にも、男性の「残念」な部分を愛でる文化があり、2000年代後半に大きくなったと言ってもいいかもしれません。
私が「残念」なイケメンやアイドルの文化があることを知ったのは、アジアのアイドルを通してでした。それは、やわかさんが指摘している2000年代後半よりちょっと早い1990年代後半から2000年代年前半だった気がします。香港の俳優は、私服がダサく、そんな気の抜けた状態の生写真が香港に行くと売っていて、香港オタは、こぞってそんなダメな写真を買いあさっていたのです。それが、女性の間で「残念」というものが、一部の間ではポジティブに消費される初期の現象だったのではないかと思います。
その後、2010年前後にK-POPブームがくると、そんな「残念」な写真は、ネットを通じて、「事故画像」として、愛好家たちの心をとらえました。「事故画像」とは、事故が起こったときの画像ではなく、事故なみに変な顔が写されてしまった画像のことです。目が半開きだったり、髪型がおかしかったり、そんなダメな写真が余計に愛しいと思い、それを友人と共有していたのでした。
もしかしたら、ほかにもこうした現象があったのかもしれませんが、なぜ、アジアに限ってこうした現象が早めに起こっていたのかというと、日本のアイドルの画像は規制も大きく、流通していなかったし、特に「残念」な画像は、出回らないようになっていたからでしょう。2000年代のアジアはまだリテラシーも低く、こうした日本のような規制がなかったこともあるとは思います。もちろん、今では、日本のアイドルたちの「残念」さも消費される時代になっていると思います。
そして、この「残念な生写真」や「事故画像」で彼女たちは何を楽しんでいるかというと、イケメンと思われているアイドルたちの、イケてない素がにじみ出ているようで、うれしいということがあるのではないでしょうか。
さやわかさんは、『10年代文化論』の中で、初音ミクというキャラクターが、三頭身のデフォルメされたキャラの「はちゅねミク」になり、ネギを持ったことで「残念」な設定を与えたという経緯を書いていますが、「はちゅねミク」は、「設定のなさ」が特徴で、「ユーザーたちがその余白に自分たちで設定を書き足せる」ことが重要と書いています。
となると、初音ミクに限っての「残念」と、イケメンの「残念」は、また男女で違う視点があるのかもしれません。でも、それが男女ともに、同じ時期に出てきたことは面白いことだと思います。これについては、また改めてどこかで深堀できたらと考えています。
レビュアー
1972年生まれ。フリーライター。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般や、女性について執筆中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に「女子会2.0」(NHK出版)がある。
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