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進化し続けるパソコンの底にある普遍的なもの
(著:加藤 肇/見城 尚志/ 高橋 久)
「はじめてのパソコン」は、MTS社のアルテア8800だといわれています。
おいおい、アップル社のアップルⅡじゃねえのかよ、と思った人もあると思いますが、あれは「完成品としてのはじめて」です。
アルテアはそうではありませんでした。アルテアは電子工作の組み立てキットだったのです。そうであるがゆえに、アップルⅡよりずっと早く家庭に入ることができました。
黎明期においては「パソコンの完成品を販売する」という発想はなかったのです。パソコンは、あくまで電子工作の組み立てキットとして流通していたのです。
ちなみに現在、世界有数の大金持ちとして知られるビル・ゲイツ氏は、こうした組み立てキット向けのプログラミング言語BASICの開発者として知られていました。所詮、当時のパソコンなんてアルテアもアップルⅡもマニアのオモチャ。大金持ちゲイツ氏も、はじめはマニア相手の小さな商売をしていたわけです。
パソコンはみずからつくるものである――この考えは、すくなくとも前世紀までは、わりに一般的な考えでした。要は、「オレのマシンは自作マシンだぜ」という人間がけっこういたのです。
部品を一個一個そろえ、自分好みのマシンを組み立てるのは、大きなメリットがありました。自分好みのスペックのマシンが構築できること。パソコンがどう動いているのか、いやでも理解できること。そして何より、「つくる楽しみ」があること。
現代でも、自作パソコンには一定のファンがいます。ただ、一時期より大きく減っているのはたしかです。理由は簡単、「完成品を買ったほうが安上がり」だから。
前記のメリットはもちろん失われたわけではありませんが、わざわざ高いお金を出してまでやろうとする人は少なかったのです。
本書は、そんな「自作パソコン」の全盛期に制作されています。当時、「パソコンのつくりかた」を述べた書物はいくらもありましたが、本書は特別でした。
「つくる楽しみ」(なんと、ハンダごての扱い方まで載っている!)は当然のこと、その理論的側面までふれられているのです!
発刊から20年も経とうとする本書が古くならないのは、こうした理論的側面あるがゆえでしょう。こういう部分は、基本的に古くなりません。
ただ、新しいテクノロジーにふれた部分は若干古くなってしまっているかな。DOS/Vと呼べるパソコンはなくなったわけではないけど、今は使わないことの方が多い。本書で相当のページをさいているパラレルポートも、見なくなって久しい。
できれば改訂版を出してほしいけど、新しくする必要はないのかもしれない。
むしろ変わりようがないところに本書の魅力はあるのだし、本書を手にとって見るような読者は、表面的な新しさなんかに価値を見出さない人たちだから。
レビュアー
早稲田大学卒。書籍編集者として100冊以上の本を企画・編集(うち半分を執筆)。IT専門誌への執筆やウェブページ制作にも関わる。日本に本格的なIT教育を普及させるため、国内ではじめての小中学生向けプログラミング学習機関「TENTO」を設立。TENTO名義で『12歳からはじめるHTML5とCSS3』(ラトルズ)を、個人名義で講談社ブルーバックス『メールはなぜ届くのか』を出版。いずれも続刊が決まりおおいに喜んでいるが、果たしていつ書けばいいんだろう? 「IT知識は万人が持つべき基礎素養」が持論。
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