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『坂の上の雲』に似て、日本の第2の青春時代に生きた天才の生涯
ソニーが日本の象徴である時代が確かにありました(と過去形でいうのは失礼と思いますが)。メイド・イン・ジャパンが〈安かろう、悪かろう〉の代名詞であった時代に、その代名詞の意味をひっくり返し〈優れている〉の代名詞に変えた企業のひとつにソニーがありました。
そのソニーを創業時代から先陣に立って引っ張ってきたのが盛田昭夫さんでした。天才、井深大さんとならぶもう一人の天才とよばれていたのが盛田さんです。盛田さんは優れた経営手法で東京通信工業を世界のソニーに押し上げていったのです。この本は盛田さんを中心にした、世界一を目指した人たちの群像劇なのだと思います。創業の苦闘、海外事業展開で味わった厳しい交渉、新製品開発へ向けての情熱が綴られていますが、どれをとってもそこにはなにより人大切にした盛田さんの姿がありました。
この本はどこか司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』を思い起こさせます。坂の上の雲(理想・夢)を追いかけて一心に走って行った明治の人たちと、盛田さんを中心に活躍するこの本の登場人物が重なって見えます。
明治が〈青春〉なら、戦後は〈第二の青春〉(評論家、荒正人さんの言葉です)だったのかもしれません。『坂の上の雲』の登場人物たちが直面したのは〈国家という事業〉であったの対して、盛田さんたちが直面したのは〈企業という事業〉だったのでしょう。
ここに描き出された盛田さんの人柄は読む人を魅了してやまないと思います。行動力、決断力、そして矜持もまた盛田さんの魅力のひとつなのですが、それらをすべてふくめてあらためてリーダーとはどうあるべきかを私たちに考えさせてくれます。
もちろん第二とはいえ青春期ならではの意気軒昂さもあふれています。優れたものを送りだすことに一心不乱なスタッフたち。試行錯誤、失敗と成功の波のなかソニーは大きく育っていきます。この姿勢が日本の高度成長を作り上げてきたのではないでしょうか。
成長は後からついてくるものです。行政の指導やさじ加減でできるものではないということも感じさせてくれました。いまの日本が〈成熟期〉なのか、それとも〈第三の青春期〉なのかはわかりません。そのどちらであってもこの本は〈事業〉というものの本質を考えさせてくれるものだと思います。かつて同胞や弟子にむけて「君らは功名をなすつもり、僕は事業をなすつもり」といったのは吉田松陰でしたが、政治、経済の垣根を越えて〈事業〉というものへ対する姿勢の正しさは盛田さんの魅力のひとつなのだと思います。もちろん〈勝ち組〉〈負け組〉などという二分法とは無縁なものとしてあるのだと思います。
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レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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