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本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」
(著:ジェイソン・マーコスキー 訳:浅川佳秀)
電子書籍は、希望に満ちあふれた技術です。
これまで、「本からは音が出ない」のが当たり前でした。そのことが数ある音楽小説、音楽マンガを成立させてきましたが、電子書籍ならばそんなことはない。音を出すのは簡単ですし、画像だって映像だって出すことが可能です。
複数の本の行き来も実現できます。シャーロック・ホームズはAという作品の中で過去のB事件に言及することが常でしたが、A作品内にB作品へのリンクを張れるならば、ホームズのセリフもだいぶ変わったものになるでしょう。
もっとも、そうした本をつくろうという動きは、出版社内ではあまり活発ではありません。電子書籍といえば紙の本を電子化したものである、という認識が浸透し、紙版と電子版それぞれまったく同じものが発売される、という形式がなかば慣習化しているのです。電子ならではの特性を生かした書籍は、未だリリースされていない、と言い切ってもいいと思います。
どうしてそうなってしまうのか──理由は簡単です。そんなコストかけて電子書籍つくれないから。現在のところ、未だ利潤の根幹である紙の本とあわせて作り、売り出すのがもっともコストがかからない方法になっています。
電子書籍がそれまでの「本」の概念をくつがえすすさまじいポテンシャルを秘めていることを知る者は、どの出版社にも少なからずいるでしょう。
しかし、現在のシステムはそれに対応できていない。結局、電子書籍のポテンシャルを多くの人が理解し、その発動をみんなが(読者が)求めるようにならないかぎり、その一般化は難しいのだと思います。
筆者は、Kindleの開発者、いわば電子書籍のエキスパートです。同時に彼は、旧来の「本」の愛好者でもあります。だからこそ、単に電子書籍を持ち上げるだけでなく、電子書籍には紙の本に永遠に勝てない側面があることを、素直に認めています。
いわく、「電子書籍を集めても、本棚に飾って知識や趣味の自慢はできない」「電子書籍に著者の署名を入れることはとても難しい」「本の間に手紙をはさむことはできない」そしてきわめてつけは「電子書籍はそのデザイン性において紙の本を上回ることが難しい」
おおいに納得いく意見でしょう。著者は旧来の「本」が大好きなのです。そんな彼が語るものだからこそ、彼が語る「電子書籍の未来」は賛同せずにはいられません。もっとも衝撃的だったのは、次の指摘でした。
やがて、すべての本はリンクで結ばれる。地球サイズの一冊の本が生まれる。作者の脳と読者の脳がラインで結ばれ、読者と作者の相違はなくなり、「書く」という行為さえその意味合いを変える──。
電子書籍が進化するならば、その方向なのかもしれません。むろん、これを実現するにはいくつも渡らねばならない川があるが、そんな障壁は案外に早くなくなってしまうものなのかもしれません。
もっとも、これらはすべて「本がデジタル(電子)であるならば、誰もが思いつくこと」にすぎません。他の技術が成したこと/言われていることを、「本の未来」というフォーマットにあわせてまとめたものと呼ぶこともできるでしょう。
もちろん、情報をこれだけ集められるのはすごいことです。その手腕は大いに認めながらも、筆者がもっとも驚いたのは、じつは「本の過去」に属するエピソードでした。
グーテンベルクによる印刷技術の発明により、たったひとりの著者が、たくさんの読者とつながる方法が確立されました。やがて来る宗教革命は、その副産物と見ることもできます。
著者はキンドルのリリース前夜、グーテンベルクのことを考えたといいます。
グーテンベルクもまた、キンドルと同様、それに携わる者に箝口令を敷き、秘密裏にことを進めたに違いない。それを明かす前夜、彼は何を考えて眠りについたのだろう──。
歴史上の存在であるグーテンベルクを、輪郭を備えた「人間」として想像する。誰にでも許されることではありません。それを自然に考えさせるキンドルとは、なんて偉大なマシンなんだろう!
本書は、そんな希有な経験を経た著者による、本の過去そして未来について述べた書物です。
レビュアー
早稲田大学卒。書籍編集者として100冊以上の本を企画・編集(うち半分を執筆)。IT専門誌への執筆やウェブページ制作にも関わる。日本に本格的なIT教育を普及させるため、国内ではじめての小中学生向けプログラミング学習機関「TENTO」を設立。TENTO名義で『12歳からはじめるHTML5とCSS3』(ラトルズ)を、個人名義で講談社ブルーバックス『メールはなぜ届くのか』を出版。いずれも続刊が決まりおおいに喜んでいるが、果たしていつ書けばいいんだろう? 「IT知識は万人が持つべき基礎素養」が持論。
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