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「ひとりの僧侶の目に映った「生と死」」の記録です。
「犯罪というのは、被害者の家庭も崩す、自分(※加害者)の家庭も崩す。いいことなんか何もない、ええ。本人が執行されても、幸せになった人間は、誰ひとりもいません。誰も幸せになってない。だから、そういう犯罪を防ぐ、減らす運動を、本当は考えないといけない……」
50年以上にわたって教誨師として死刑囚に接してきた渡邉普相師が最後に語った言葉は静かです。一見、誰でもがいいそうな言葉です。けれど重さが違う、とこの本を読んで思いました。
渡邉普相師は広島で被爆し、なんとか生還しました。けれど渡邉普相師の
「心の片隅にあったのは大勢の人を見殺しにして逃げたことへの悔悟、そして原爆症はがいつ再発するかという恐怖だけ」
だったのです。
その思いが大きな要因だったのでしょう、渡邉普相師は上京後、教誨師をしていた篠田隆雄師と出会い、篠田隆雄師に導かれるように同じ道を歩むことになりました。
「二度と外の社会に出て気分転換すらすることの叶わぬ死刑囚たちに、精神的な広がり(空間)を与えるよう努めるべきだ」
という篠田隆雄師の持つ信念を同じくしながら渡邉普相師さんは多くの死刑囚と過ごす日々をおくります。
面会者が限られている死刑囚にとって教誨師は特別な存在だったと思います。時には発覚しなかった余罪を告白するもの、文字が書けない者に文字を教えることもあったといいます。また裁判中には訴えることができなかった肉親への強烈な怨みを話す者もいました。
そういう人たちと接する教誨師としての日々の重圧からか渡邉普相師はアルコール依存症になってしまいます。その頃は入院した病院から拘置所へ通う日々でした。けれどこの入院は渡邉普相師に教誨師のありようを再考させることにもなったのでした。
渡邉普相師は自ら立ち会った死刑執行のありよう(今は変わっているところもあるようですが)も静かに語っています。そして堀川惠子さん(著者)に語りかけます、
「一般の人は死刑っていうものは、まるで自動的に機械が行うくらいにしか思ってないでしょう。なにかあるとすぐに死刑、死刑と言うけれどね、それを実際にやらされている者のことを、ちっとは考えてほしいよ」
「刑務官も可哀想でしたよ、本当に。(略)前は目の前でレバーですから。自分が落としているのが確実に、自分が人を殺しているのが分かるわけですよ」
と……。
この本は死刑の是非について論じたものではありません。堀川さんが記したように「ひとりの僧侶の目に映った「生と死」」の記録です。
「真面目な人間に教誨師は出来ません」
「突き詰めて考えておったりしたら、自分自身がおかしゅうなります」
という言葉を正直に語った僧侶の記録なのです。
そしてその記録からなにを感じ、考えるかは私たち次第なのだと思います。
篠田隆雄師は〈悪人正機〉についてこう法話で語ったそうです。
「自分は善人だと思い上がっているような偽善者が救われるというのならば、自分の内なる悪を自覚して苦しんでいる人間はなおのこと救われるのだ」
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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