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子供は未完の大人ではありません、独自のルールと感情の発露を持っているのです
(著:倉橋燿子 絵:さべあのま )
アトピーで苦しみ悩む少女、水木一子(通称いちご)の一家が東京を離れ長野の山の中に引っ越すところから物語は始まります。転校後の学校になじめないいちごは学校をサボり森の中で出会った犬たちと遊んで一日を過ごしていました。そんないちごの前に現れたのは動植物と話せる少年、光くんでした。彼と出会ったことでいちごの世界は少しずつ変わり始めます。
というと都会の快適さの裏に潜む怠惰さ、田舎の自然の中にある厳しさと新たな発見という物語にまとめられてしまいそうだけど、この本はそれにとどまらないように思います。転校初日での新しいクラスメートとの思わぬすれ違い(これはいちごがアトピーに悩まされていることが大きな原因なのですが)、それによる仲間はずれ。いちごはそんなつらさに、これだったらアトピーが治りにくくてもいっそ都会に戻りたいとすら思ってしまうのでした。
いちごはせっかく出会え、心が通じ合えた光くんの素晴らしさを(それはいちごには超能力にすら感じられたものですが)両親に伝えようとしてもうまくいきません。分かってもらえないもどかしさ。すれ違っていくそれぞれの善意、もちろん家族だからと言って愛情が無条件に伝わるものではありません。これをいちごの目から素直に語られているのです。
物語の随所に添えられた、さべあのまさんの絵もただ客観的にいちごの姿を描いているわけではありません。どこかいちごの主観で描かれているのではないかと思えるような描き方なのです。そしていちごの素直さ(学校を無断でサボるのだから純朴ではないかな?)かわいらしさをすばらしく描き出していると思います。
山の中の町に行って、いちごが元気を取り戻すだけの話ではなく、そこで思いがけずいちごが失ってしまうものもまた過剰な思い入れなく素直に綴られています。子供は未完の大人ではありません、独自のルールと感情の発露を持っている人間です。そんな当たり前であるはずのことも、いつか時が過ぎ、常識というもう一つの誰か決めた善意にとらわれるとともに忘れてしまう……そんな何かを思い出させるものだと思います。
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