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色あせないケネディという名の持つカリスマ性、神話性
(著:ビル・オライリー/マーティン・デュガード 訳:江口泰子)
それまで、まったく違った人生を歩んできた二人、ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ元大統領と暗殺者(とされている)リー・ハーヴェイ・オズワルドが接点を持ったのはただ一度、1963年11月22日午後12時31分テキサス州ダラスでした。
いまだに多くの謎につつまれている大統領暗殺事件を、この著者はあえて明白になっている事実だけを積み重ねて語ろうとしています。もちろん事件解明のなかで新しく発見された事実もありますが、この本のおもしろさはその語り口に現れているように感じました。
すぐれたドキュメンタリー・ドラマのように、ケネディが太平洋戦場での部下の救出劇によって英雄視されるようになった出来事から、彼の暗殺後までの時間が中心軸になっています。そして、このケネディが重要な出来事に直面した時、もう一人の男、オズワルドがどこで何をしていたのかを丁寧に対比するように描き出しています。それはあたかも華麗なる一家の盛衰と平凡な男の一家との対比のドラマを見ているようです。
この二つの男(家)の違いは何なのでしょうか。病に悩まされ、また数々のスキャンダルにあっても(もっともこれらは在任中には知られなかったものもありますが)屈することなく、権力闘争に勝ち抜き、大統領に就任後もキューバ危機等の難局を切り抜けてきた男、ケネディが象徴しているものはなんなのでしょうか?
また、ケネディ同様、スキャンダルの中にあっても屈することのなかったキング牧師や、副大統領職というお飾り職についたため失ってしまった権力を取り戻そうと焦るリンドン・ベインズ・ジョンソン副大統領の強引な姿。そのような人たちの中で生きたケネディ一家の姿はアメリカン・ドリームの象徴というのには生々しすぎます。この本の著者の語り口のうまさがさらにそれを強く感じさせます。
そして、ケネディ家に比べればなんら華やかなものがなく、平凡というよりもむしろ愚直さを感じさせるオズワルドの生き方。放浪と煩悶の日々をすごしたオズワルドだったようです。さらにオズワルドを納得しがたいな理由で射殺したジャック・ルビーという男。ルビーはまるでオズワルドを殺すためだけに登場してきた人物のようにすら思えてくるのです。オズワルドとルビー、この二人とケネディ一家を隔てているものはなんなのでしょうか。それがアメリカン・ドリームの実現の仕方の違いなのでしょうか。アメリカの悪夢なのでしょうか。
この本には、たくさんの死者が描き出されています。その死者の姿を描きながらも暗殺をめぐる真実や陰謀の実態というより、より強くドラマ性を感じさせるのは著者の立脚点や登場人物の描き方の強さだけではなく、やはり色あせないケネディという名の持つカリスマ性、神話性なのかもしれません。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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