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(著:山之内 正)
10年以上前、とあるイベントの準備をしていた時のこと。友達の一人が、おもむろに円柱形の物体を取り出した。初めて見たそれは「ポータブルスピーカー」だった。Bluetoothでスマートフォンとつなぐことで、音楽を流すことができるという。音質もよい。今となっては当たり前だが、「スピーカーを持ち歩く」という発想がなかった当時の私は、「無線でも音楽が聴けること」と合わせて、大きな衝撃を受けた。
その後は、世間にすっかり浸透したワイヤレスイヤホンの恩恵にあずかり、音楽を聴く日々だ。とはいえ、それ以外の聴き方と縁がない分、最新のオーディオ事情にはとんと疎い。だから本書を通じて、オーディオをめぐる変化と進化の速度にふたたび驚かされた。
著者は今回執筆した目的を、こう記している。
ネットワーク全盛の時代、オーディオの世界も大きな変化の波にさらされ、ハードウェアも再生スタイルもこの20年ほどで大きく様変わりしました。変化のスピードが速いので、しばらく距離を置いていたら全体像がつかめなくなったという人も少なくないと思います。そんなオーディオファンのために、現在のネットワークオーディオの状況を整理し、スムーズに導入して便利に使いこなすための方法を紹介することが本書の目的です。
本書は大きく2部に分かれる。「ネットオーディオのすすめ」と題した第1部では、これからネットオーディオの世界へ足を踏み入れる方に向けた、基本的な知識が紹介されている。続く第2部では、「クイック・スタート・ガイド」と称して、ネットワークプレーヤーの選び方から設定、そして機材に合わせた高音質ストリーミングの使い方と応用までもが網羅されている。実際の操作画面や図版も多く、わかりやすい構成。
著者は東京都立大学理学部物理学科を卒業後、出版社に勤務した。のち、1990年にオーディオ評論家として独立。その後はオーディオ専門誌の『STEREO』、『季刊Audio Accessory』 、『季刊Stereo Sound』や、ネットメディアの「Phile-web」、「StereoSound Online」、「AV Watch」といった媒体で活躍を続けている。著書も数多く出版しており、本書と同レーベルのブルーバックスでも、2013年に『ネットオーディオ入門』を刊行している。
ちなみに本書では、定額制音楽配信を楽しむための知識も紹介されている。たとえば「ロスレス」や「ハイレゾ」といった高音質音源についての解説や、ストリーミングサービスごとの違いや選び方、そして音声データのファイルフォーマットや圧縮方法の違いについても細かく触れられている。ほかに、音楽ファンでなくとも目にすることがある「WAV」や「ALAC」「MP3」といった音楽データの形式についても詳しく載っていて、あやふやだった知識が思いがけず補完できた。
なお第二部には、「ネットオーディオ」により深く親しむための情報がぎゅっと詰まっている。特に、日本ではまだサービスが開始されていない『Qobuz(コバズ)』(フランス)や『TIDAL(タイダル)』(ノルウェー)といった、海外で提供されている定額制音楽配信サービスに関する記述も目を引いた。前者は今秋、本邦でも開始予定があるとのことで、事前に準備したい人にはうってつけの内容だろう。
作り手が届けたい音楽を、より良い音で聴くために。初心者であっても「最新のサービスに興味がある!」という方は第一部までを、「実際にお金をかけて、自分の手元で機材を揃えてさらに音楽を楽しみたい!」という方には、第二部まで含めて読むことを勧めたい。
- 電子あり
CDをはるかに凌駕する音質で、話題になったネットオーディオ。
しかし、割高な価格とダウンロードのわずらわしさから一部のマニアにしか支持されませんでした。
それが、高音質定額制配信サービスの出現で、大きく変わろうとしています。
月々のわずかな料金で、CDをはるかに凌駕する音質の1億曲のライブラリーが、聴き放題になるのです。
本書は、初めてネットオーディオに挑戦するオーディオファン・音楽ファンを対象に機材の選び方から、煩わしいネットの設定まで具体的に分かりやすく解説します。
■内容紹介
第1部 ネットオーディオのすすめ
第1章 ネットオーディオとは?
第2章 高音質音楽配信=ロスレス&ハイレゾ配信の楽しみ方
第3章 再生機器の変化と進化
第4章 ストリーミングサービスの選び方
第2部 クイック・スタート・ガイド
第5章 ネットワークプレーヤーの選び方
第6章 機材運びの基礎知識
第7章 ネットオーディオの設定
第8章 高音質ストリーミングのセッティング
第9章 「Roon」の設定と使いこなし
第10章 ネットオーディオのバリエーション
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。
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