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日本の経済を支えているのは99%の中小企業。6人の起業家のジェットコースター物語

あなたの知らない 意外とイケてる起業家の告白
(著:百折不撓編集委員会)
2024.06.21
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百折不撓(ひゃくせつふとう)、志を曲げなかった起業家たち

月曜夜、テレビ東京の番組『カンブリア宮殿』が好きだ。特に、経営者がピンチをいかに切り抜けたかをイラストで紹介するところ。高川裕也のいい声で「それが起死回生の一策となった!」とかナレーションが入るヤツ。本書は、6人の起業家が数々のピンチをどう乗り越え、今に至ったかが記されているのだが、私はそれを読みながら、勝手に「それが転機となった!」とナレーションを付けてしまいました(楽しい!)。

本書に登場する起業家はこの6人。
1. 横浜家系ラーメン「壱角家」や「山下本気うどん」を展開する外食産業「株式会社ガーデン」の川島賢社長(1971年生まれ)
2. 高級食パン「ムー」や、おしゃれカフェ「パンとエスプレッソと」で知られる「株式会社日と々と」の山本拓三社長(1977年生まれ)
3. ギター教室「新堀ギター音楽院」などを運営する「新堀ギターグループ」の新堀寛己氏(1934年生まれ)
4. 福井県で50年続く税理士法人上坂会計のほか、経営・FP・ITなど多分野でコンサルティングを展開する上坂朋宏氏(1958年生まれ)
5. 富山県の非破壊検査専門会社「株式会社アイペック」の高見貞徳相談役(1944年生まれ)
6. 電子書籍による自費出版というビジネスモデルを確立した「株式会社22世紀アート」の向田翔一社長(1982年生まれ)

業種も異なれば、事業を展開するエリアも異なる。経営者の年齢もバラバラ。同じなのは、(現時点では)中小企業といわれる規模の会社で、それぞれになにか突出した強みを持っているということ。その人選に関しては、「面白いピンチのエピソードを持っている人から順番に出す」が編集方針なのでは?と思うほど波瀾万丈、ジェットコースターのような半生を生きてきた経営者たちばかりだ。そんな彼らの生き様は、「百折不撓」という言葉で言い表せる。

百折不撓とは、何度失敗しても志を曲げないという意味です。本シリーズは、中小企業の経営者が遭遇した困難、そこでの苦悩を、どう克服し、どう自身と会社を再生していったかのストーリーで構成していきます。

倒産の危機、社員の一斉退社、ヤクザからの逃走……。とにかく、ありとあらゆる会社のピンチが、ここで語られています。

ロールモデルを求めるなら中小企業の経営から

起業といってもそのスタートは、勤めていた会社の不採算部門を独立させる、家業をベースに他分野へ進出する、夢を追いかけて道を切り開く……と、さまざま。起業家たちが生きた時代背景や、東京と地方で考え方や選択肢も変わってくる。

なかでも興味深く読んだのが外食産業「株式会社ガーデン」の川島賢社長だ。高卒でフリーターを経てカラオケ店を経営。次々に不採算のカラオケ店を買い取って事業を拡大し、飲食業に参入。世間的には、焼き牛丼のチェーン「東京チカラめし」のM&Aで知られる。

東京チカラめしも、なるべく早くお金が必要であることがわかっていました。だから「うちは、明日にでも現金で支払いますよ」と言ったんです。そうして、当社が63店舗を引き継ぐ形となりました。

イケイケドンドン! 取引銀行から「あんな牛丼店を買って、どうするんですか」と言われた決断だったが、牛丼店から家系ラーメンの「壱角家」に業態転換し、大成功に導く。

高い利益率のためには一切の妥協を許さず、「冷徹」「数字の鬼」と呼ばれることも厭わない社長。……正直ちょっと怖い? いや、そこに至るには数々のピンチがあったのだ。居抜きビジネスでカラオケ事業を拡大したときに資金をショートさせたり、リーマンショックで銀行からの貸し剥がしに遭ったり……。しかし、ピンチは人を育てる。社長引退後に会社が傾いたときには、大幅なコストカットを断行。交際費をほぼゼロ円にまで絞る一方で、再び黒字化を達成。従業員の賞与を上げたままコロナ禍を乗り切ったという。

飲食業界だけに限らず「お客様を大切にしましょう」と掲げている企業があります。はっきり言って、きれいごとだと思っています。そのため、ガーデンでは日頃から「お客様を大切にするのではなく、まず自分を大切にしなさい」と伝えています。

ブラックな職場環境が常態化しやすい業界だが、儲けを社員に還元し、飲食業を憧れの職業にする。川島社長は、それが使命だと考えている。

人がなにかを目指してロールモデルを求めるとき、特に起業家や経営者ならロールモデルをジョブズやベゾスなど(大企業の)経営者に目を向けていないか? でも見習うべきは優れた(中小企業の)経営者であり、そこから学ぶべきことの方が多いのではないか? 川島社長とは異なり、お客様ファーストで要望を叶えるために業態を増やした税理士法人上坂会計の上坂社長や、急激な成長より安定して成長を目指す株式会社アイペックの高見氏など、経営者のあり方も多様だ。さまざまな起業、経営の在り方を、この本を読んで知り「それが転機となった!」という新たな起業家が現れることを望む!

『あなたの知らない 意外とイケてる起業家の告白』書影
著:百折不撓編集委員会

日本に存在する企業の大半は中小企業だ。中小企業が日本の経済を支えている。その中小企業の経営者の波乱万丈な半生を描き、苦難から復活していくまでのストーリーを伝えるシリーズの創刊号。

▽横浜家系ラーメン壱角家、山下本気うどんで知られるガーデンは、ブラック職場をホワイト化するために奮闘中。KPIに設定する指標とは……
▽高級食パンの先駆け「パンとエスプレッソと」の日と々とを襲った大ピンチ。経営者が魂を込めて従業員に送ったメッセージの中身とは……
▽ブリキの看板で知られる新堀ギターグループが全財産を失った後に見事復活を果たした理由とは……
▽福井・越前市で創業した上坂会計事務所はなぜ、カンボジアへ世界展開するなど7法人のグループになったのか……
▽富山県唯一の非破壊検査会社が生まれるまでの奇跡の独学ストーリーとは……
▽22世紀アートがめざす出版革命の中身とは……

就活生や転職を考えている人は「こんな経営者がいたんだ」と感じ、協業先を探している企業経営者は「一度連絡してみよう」と思うはず。起業を考えている人には、経営にかける熱い思いと覚悟が伝わる必読の書。

日本もまだまだ捨てたもんじゃない。著名でなくても、著名経営者に劣らぬ「たぎる熱い思い」を持った経営者はたくさんいる。そこには日本再生の処方箋のヒントがある。

レビュアー

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嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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