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AI時代を生き抜く子どもの脳の育て方。人工知能研究者が息子で実践した子育てとは。
(著:黒川 伊保子)
黒川伊保子さんといえば、大ベストセラー『妻のトリセツ』の著者である。17年前、その著者が自身の子育てで実践したことを記した『「しあわせ脳」に育てよう!』という本がある。本書は、その本に大幅な加筆・修正を加えた一冊になる。
しかし、子育てってそんなに変わるものだろうか?
結論から言えば、変わる。もちろん変わらない部分もあるが、17年前といえば、まだみなさんWindows XPを使っていた時代ですよ。アップデートは必要だ。
脳科学者として最先端の研究現場にいた著者が、「我が子」を抱いて、どうすれば「しあわせな天才脳」を育てられるかを考えた。そこで、最も重きを置いたのが「自己充足に満ちた脳」にするということ。
息子がどんな学校に行って、何になるのか、そんなこと目じゃなかった。(中略)1991年時点で想像できるエリートの道が、30年後あるいはもっと先に通用するとは思えなかったから。
「人の言うことを聞く、いい子」である必要もないと思っていた。「人の言うことを鵜呑みにして、褒められることを心の糧にして生きていく」優等生に、自己充足が訪れることがないのを知っていたから。
とは言っても、なにか特別なことを行ったわけではない。脳神経信号を制御するホルモンが、出るべきときにうまく出るようにする。ホルモン分泌が適正に行われる生活習慣を「金のルール」として心がけながら、基本的に甘やかして育てたという。
金のルール、それは、「早寝、早起き、朝ごはん、適度な運動、そして読書」である。
当たり前すぎて、ちょっと拍子抜けするようなルールだが、やはりコレに尽きるのだ。セロトニン、メラトニンという重要なホルモン分泌が、時間や光刺激に影響されることや、眠っているうちに脳が進化するといった基本的なことから、コレステロールが脳の働きを助けること、「脳の体験」を増やすにはファンタジー作品がいいこと(動画やゲームも悪くないが、読書が一番)など、「へぇ? そうなんだ」と思うような知識を、日々無理なく実践する術にまで落とし込まれて解説してくれる。生活習慣と脳科学の密接な関係を、著者の説得力バツグンの文章で解説されると、我が子の集中力の欠如や「やる気」のなさに悩まされる親の前に一筋の光がさしてくるようだ。いや、これマジで。
そうした、いつの時代でも心がけたほうがいい「金のルール」(子供の成長に合わせたアドバイス「銀のルール」もある)に加えて、是非とも読んでほしいのが「第II章 AI時代の子育てに欠かせないセンス」だ。
AI時代に最適化された子育てとは?
第II章では、著者の子どもの子ども、つまり孫が迎える20年後の社会を見据えて書かれている。それはAI時代を生き抜く力のつけ方だ。
ここで大切なキーワードとして出てくるのが「心理的安全性」。
企業の人事部では、ここ数年、「心理的安全性」というワードが囁かれている。
グーグルが4年にも及ぶ社内調査の結果、効果の出せるチームとそうでないチームの差はたった一つ、心理的安全性(Psychological safety)が確保できているか否かだ、と言い切ったからだ。心理的安全性とは、「なんでもないことを無邪気にしゃべれる安心感」のこと。つまり、脳裏に浮かんだことを素直に口にしたとき、頭ごなしに否定したり、くだらないと決めつけたり、皮肉を言ったり、無視したりする人がチームにいないことである。
「口を動かさずに、手を動かせ」と言われて育った世代としては、「無邪気にしゃべれる安心感」の重要さがイマイチ響かないのだが……。ここで、AI時代に求められるスキルを考える必要がある。
生成AIのChatGPTをいじったことのある方、特に雑談を試みたことがある方に聞きたい。「確かにChatGPTは、ちゃんと言葉を返してくる。でもだいたいの返事は優等生的でつまらなくない?」と思わなかっただろうか? 実は、ここが生成AIを扱える人と、そうでない人の境界なのだ。生成AIを使いこなすための必須のスキルは「対話力」だ(と、経済産業省も言っている)。生成AIはつまらない質問には、つまらない回答を出すし、個性的な質問には思いもよらない回答を出す。すべては質問者の発想力、センス次第。相手の反応を気にせず、気になることをどんどん深掘りしていく対話力、ときにはムチャ振りとも思えるような質問が大事なのだ。それは子どもの「なんで、なんで?」「どうして?」という親泣かせの質問にも通じる。
同時に、生成AIについて、よく言われるのが「ウソをつく」ということ。これは確かにそのとおりで、進化に伴い改善されるところもあるだろうが、完璧には至らないと言われている。AIを扱える人はウソを見抜くスキル、「なんとなく腑に落ちない」「つじつまが合わない」と思ったときに立ち止まれる危機回避能力が求められる。
そうした対話力や危機回避能力が求められる時代に、「無邪気にしゃべれる安心感」を与えられなかったら……? 「そんなことも知らないの!」「なに、つまらないことを!」と親が返していれば、子どもは言葉を呑み込むことを覚えてしまう。そうすると、ヒトは発想することもやめてしまうという。
21世紀を生き抜く人材に不可欠なのが、「気づきと発想力の回路」なのだ。つまり、「成果や責任で追いつめて、叱って躾(しつ)ける」20世紀の指導法は、21世紀には、逆に仇(あだ)になるのである。
うっ、イタい。
しかし、そのイタさこそが、気づきであると親が認め、接し方を変えていくことが、AI時代に対応できる子どもにする方法なら、やるしかない。まずは少しずつ、今日、家に帰ってから。
- 電子あり
人工知能研究者がかつて息子で実践したリーズナブルな子育ては、じつは、これからのAI時代に望まれる人間像に合った「自己充足度の高い脳」づくりに最適だった!
いわゆる「人の言うことを聞く、いい子」ではなく、好奇心と意欲が旺盛で穏やかで温かい。おっとりしているが決断は早い。集中力があり、質問力が高い。そんな「しあわせ脳」をつくるには?
2006年に刊行し話題をよんだ『「しあわせ脳」に育てよう!』を大幅にアップデート。これからの子育てへのヒントだけではなく、自分の脳のメンテナンスにも最適!
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。
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