持たざる者の一発逆転ストーリー
いじめ、DV、貧困、不幸の大三元テンパイ。次の牌をツモる前に、高校1年生の白井大矢(ハンドルネーム:メガネ)は、ネットで志願者を集め、廃寺で集団自殺をしようとする。最愛の家族を失った佐々木繭子(ハンドルネーム:アズ)と元警官の林十三(ハンドルネーム:十三)ら3人の前に、伽賀レイジと名乗る謎の男が現れる。彼は3人を廃寺の地下へと誘い、そこで旧日本陸軍が貯蔵した高純度の覚醒剤を見つける。市場価格はざっと500億円以上。これを売りさばき、人生の大逆転をはかる!という、このマンガ。
先に言っときます!
ダメ。ゼッタイ。覚醒剤!
『満州アヘンスクワッド』の鹿子先生が、「ドラッグ、ヤクザ、半グレ…怖い物は数あれど、最も怖いのは、覚悟を決めた“持たざる者たち”!」と帯文を寄せているように、本作は悪党が悪党を潰す「ドッグ・イート・ドッグ」なピカレスクもの。それも、かなりド直球の高カロリーな作品だ。そもそも500億円以上の現物を売りさばこうという悪党たちが主人公なのだから、敵対する悪党たちは倍々の悪党でなくてはならない。
まず登場するのが半グレリーダーの売人、倫理さん(ネーミングセンス最高)。
怖いよ~、倫理さん!
爪まで目に入っているよ~!
そして、こちら覚醒剤をキメた倫理さん。
こんなぶっ飛んだ悪党の倫理さん。人の足元を見るのが商売の基本の方なので、言い値なんかじゃ買ってくれません。1キロあたり2000万円の言い値を、ゼロがひとつ足りない200万に値切ります。というか、現物を全部巻き上げる気マンマンです。「暴力がすべて」の世界に生きる人たちって明快! そしてオラった半グレメンバーが繰り出されるわけですが、これを瞬時にレイジが片付けます。やっぱりマンガはこうじゃなくちゃ!
さらには十三の怪力、アズの卓越したドライビングテクニックでピンチを脱する4人。この持たざる者の数少ないスキルが、有用すぎる点について「この組み合わせ、都合良すぎない?」なんていうのは野暮。それより、どん底から再生を決意する様に清々しささえ感じさせます。
謎の中心人物レイジとは?
本作の物語は、メガネの視点から語られます。しかし物語の中心にいるのはレイジで、その正体がまったく見えません。死んだじいさんの話から旧日本陸軍が隠したヤバいモノを見つけ、あっという間に自殺志願者の3人を仲間に引き入れ、あからさまにヤバそうな売人・倫理さんに商談を持ちかける。行動は無軌道だけど、半グレグループを圧倒する戦闘力を持つ。果たして彼は何者なのか? わかっているのは……
レイジには助けたい人間と殺したい人間がいる。それは誰なのか? そしてレイジに巻き込まれたメガネ、アズ、十三たちは、これからヤバい現場を踏むたびに絆を強くしていくはずだ。ただし忘れてはいけないのは、この物語が悪党の話であるということ。だまし、裏切り、脱落がないとは限らない。
そんなヘビィな展開を予感しつつも、まだ物語は戸口に着いたばかり。常識のネジを飛ばしたやんちゃなワルが、次々に登場して話を盛り上げてくれます。そこで登場するのが、倫理さんのお友だち・面積くん(だからネーミング最高だって!)。
この小銭を持ったクズ感、不快指数100のワルです! 彼は黒のワンボックスカーで、サックリとメガネを拉致。「仲間について吐け」と、容赦ない暴力をふるいます。メガネが絶望の淵で弱々しく助けを求めた直後に……
爽快!
「1巻目で暴力のテンションをここまで上げて、この後大丈夫かしらん?」と、いらぬ心配をしてしまう。この暴力描写もそうだが、売買の決済方法を「支払いは仮想通貨でUSドル連動の値動きの少ないコインを使う」なんてサラリと出てくるこのリアリティ! SNSでの営業活動、薬物の受け渡し方法、警察の捜査手法までかなり踏み込んで描かれていて、(役立てちゃいけない)その知識も楽しい。「よく調べてあるなぁ」と思ったら、取材協力に多数のアンダーグラウンド系書籍を手掛け、YouTubeチャンネル「丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー」のプロデューサーでもある草下シンヤ氏の名前を発見して納得。このイキイキしたワルの感じがたまらなくて、11月の2巻発売が待てず、コミックDAYSで続きを読み始めたら2回もポイントチャージをすることに……。と、止まらない!
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。