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2023.08.10

レビュー

共通の父親をもつヤクザと警官の兄弟。正義とは何かを問うハードボイルドピカレスクロマン!!

A-BOUT!』『僕はどこから』などで知られる市川マサ先生が挑んだ意欲作『正義と極道』。ヤンキーやヤクザを描いてきた市川先生の最新作は、刑事とヤクザが主人公です。

本作は1巻完結ながらも350ページ超の大ボリュームで、濃いキャラクターたちと一本筋の通ったストーリーでグイグイ読ませます。

仲間の裏切りにより命を落とし、莫大な財産までも奪われてしまった、日本最大の暴力団・天鷹会会長。本作は、そんな会長を父にもつ息子が、奪われた金を奪還し、命を奪った裏切り者に対する復讐をする壮絶な物語です。

主役となるのはこの男。


天鷹会二次団体・土屋組組長の権藤正人。物語冒頭では、瀕死の重傷を負った弟分と共に、絶賛逃亡中。

そしてもうひとりの主人公がこちら。



警視庁捜査一課SIT、警部の真島義人(よしと)。逃亡中の権藤を追う男。白バイのまま階段を駆け下りるなど、常識破りの追跡で権藤を追い詰めます。



権藤も銃で激しく応戦。弟分・カズの死という犠牲を払いながらなんとか追跡をかわします。そしてその夜、権藤が逃げ込んだ夜の埠頭(ふとう)に現れたのは――。



権藤、絶体絶命大ピンチ!と思いきや、どうもふたりの様子が……?



銃撃戦をしたとは思えない和やかな雰囲気。それもそのはず。権藤と真島は、なんと兄弟だったのです。

話は約30年前にさかのぼります。天鷹会会長・山王勇次郎は同じ日、同じ時間、ふたりの愛人との間にそれぞれ男児を授かりました。



「正義」を行うことを託された、山王の息子ふたりが、権藤正人と真島義人なのです。

誕生から30年を経た彼らが成し遂げなければならないこと。それが、殺された父の敵討ちと、奪われた財産の奪還であり、これがふたりにとっての「正義」。

 

 

警官と極道という表と裏、ふたつの道から、自身が信じる正義を実行する物語。
では、ふたりの正義の刃が振り下ろされる対象となるのはいったい誰なのか。怪しい人物を紹介しましょう。

まずは、現天鷹会会長である海道剛徳(かいどうごうとく)。



権藤と真島、ふたりの父親である山王勇次郎を殺し、その地位と財産を奪ったとされる男です。この男、極道の道からも逸れる非道の商売をしているとの噂が。それは、臓器売買ビジネス。しかも、代理母を使って胎児から臓器を取り出し、富裕層に売るというおぞましい商売です。

続いてもうひとりの、怪しい男。



警視庁組織犯罪対策部、課長の澤。組織犯罪対策部[以下、組対(そたい)]とは、主に暴力団や外国人などの組織犯罪や銃器・薬物の取り締まりを行う部署です。つまり、天鷹会等の極道が取り締まりの対象となります。

本作は、権藤と真島、そして海道に澤という4人を中心にストーリーが展開していきますが、命のやり取りをするようなハードボイルド作品で、なんといっても重要なのが、悪役の存在感です。敵が悪として輝けば輝くほどに主人公たちも引き立ち、物語はアツくなる。

そういう意味で、澤という男、悪役として100点満点です。

部下が、真島から聞いた話として海道の臓器ビジネスについて言及しようとすると、こんなセリフを放ちます。

 

持って回った言い方で、部下に釘を刺す男。しかも、真島がヤクザに情報を流しているとして、何やら画策中の様子。油断なりません。

 

さらに、真島が情報提供者と密会しているとのネタを仕入れた際にはこんなシーンも。

 



同じ警察官である真島を追う状況で、射殺もいとわない胆力。

真島が、未解決である20年前の山王勇次郎殺害事件についてなぜ組対は捜査しないのかと問うと……



淡々と、しかし鋭い眼光と共に答える澤。

ワルはこうでなくてはというセリフを連発し、そのふてぶてしい面構えと、組対を仕切るキレ者っぷりともあいまって、本作でとびきりの悪役っぷりを披露しています。

物語の中盤では、謎の少年・ジェシーも登場。

 



実はスゴ腕の殺し屋というこの新たなキャラクターの出現で、この復讐劇はさらなる混乱へ突入します。

そもそも海道と澤、そして山王勇次郎との間には何があったのか。そして登場人物それぞれの思惑が交差するなか、権藤と真島は敵を警戒の目をかいくぐって父の仇を討ち、財産を取り戻せるのか。

350ページ超を駆け抜ける、ハードボイルド極道&警察アクション。続きがあるなら読んでみたいと思わずにはいられませんが、これで完結という潔さと併せて、どこか清々しい読後感も魅力。

映像化するなら、誰が演じると面白いだろう……そんなことを想像したくなるほど、各キャラクターたちが輝いている作品です。

レビュアー

ほしのん イメージ
ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009

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