奇妙なマークを持つふたりの出会い
この『カオスゲーム』を紹介する前に、この作品の作者・山嵜大輝氏が「四季賞2020年冬のコンテスト」で四季大賞を受賞した『岸辺の夢』について、少し触れさせてください。この作品、めちゃくちゃいいんです。
主人公は、夢の中に現れる女性を描き続けている画家。彼は、その女性を知っているという謎の男に導かれ、砂漠の古代遺跡へと足を踏み入れる……。という物語なのですが、手塚治虫や諸星大二郎の怪奇漫画の流れを汲みつつ、夏目漱石の『夢十夜』の不条理さも感じさせる、読む人の心に強く残る短編です。
そんな、ある種「文学」といってもいいような端正な作品を描く作者が、月刊アフタヌーン初連載で一大エンターテインメントを繰り広げているのが『カオスゲーム』という作品です!
主人公は週刊誌記者の鈴木蘭。彼女の最も古い記憶は、母の胎内で「神」を見たこと。そして、腹部に三つの「○」が重なるアザを持っています。
彼女はフリーランスのカメラマンと組み、議員と暴力団の黒い関係を暴こうとしますが、出版社の内部事情により記事はボツに。さらには潜入取材がヤクザにバレ、拉致監禁されて絶体絶命のピンチ……! そのとき、謎の男が現れます。
殺したヤクザ、そこに居合わせたヤクザの名前をカウントしながら「数が合わない」と、つぶやく謎の男。
そして、ここから男に襲い掛かるヤクザが、次々に死んでいくシーンが素晴らしい!
この連鎖的な事故で次々に死んでいくシーンの残酷描写の凄まじさ。完全に振り切っています。さらに謎の男は、拳銃を構えるヤクザのボスに
「人生なんて所詮は運でしかない」
「お前が死ぬ原因はいくらでもある」
「俺はお前の災いだ」
と語り、文字どおり災厄をもたらします(この死にざまも容赦ない)。
この災厄をコントロールする謎の男は、さらに鈴木を殺そうとするも失敗。男はなにかを悟り、こう言うのです。
目には「◇」が重なったマーク。鈴木の腹部の「○」のマークと、なにか関係が……?
現場に謎の男の痕跡が一切残っていなかったため、事件は暴力団の抗争事件として片付けられますが、真実を報道したい鈴木は出版社を辞め、謎の男を追うことを決意。そこに協力者が現れます。
彼の名は東京一(あずまきょういち)。政治から芸能、オカルトまで、どんなネタでも扱うフリーライターで、暴力団の事件に似た事件を知っていると言います。それは3人の家族全員が、同じ日に、別々の場所で起こった事故で死んだというもの。そこから物語は、これらの事件の裏に隠された真相に向かっていきます。
神々のゲームへようこそ!
ほとばしる血しぶきに怪奇現象、バイオレンス、そして大爆発! エンターテインメントに必要な要素を全部盛りにしたこの作品。どこか内省的だった『岸辺の夢』から、圧倒的な画力を武器に、爆発的なまでの飛躍を見せています。
そして忘れてならないのが、読む者を物語に引き込む魅力的なキャラクターたち。
正義感が勝ち過ぎてカラ回りする主人公の鈴木蘭。そして、掴みどころのない性格ながら「純度100%の怪奇現象(オカルト)」を追い求める東京一。この二人がバディを組むことで、強烈な暴力のなかにコメディが生まれ、物語に緩急をつけています。
そして物語の真相の断片が、ある老婆から語られます。
そう、これは「◇」の神と「○」の神が、人間を駒にしたゲームの物語。現在のところルールは不明。今後そのルールがひとつ、ふたつと明かされながら物語は盛り上がりそうです。このゲームの勝敗の行方は? 勝利の先にあるものは? その展開に期待は高まるばかり。
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。