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2022.09.19

レビュー

異能力を持った老紳士ふたりの華麗で危険な夜遊び。オノ・ナツメの新境地!

補い合う異能を持つ老紳士たちの駆け引き



仲良しコンビは見ていて和むが、バディものは例外だ。仲が良くない2人が、いがみ合いながらも協力し合って何かを解決するとき、そこには「仲良しコンビ」の間にはない大きなドラマと謎が生まれ、私を引き付ける。

『THE GAMESTARS ザ・ゲームスターズ』は、互いに補い合う異能を持った老紳士2人の物語。右側のメガネをかけた男が左側の偏屈な男を巻きこみ、なかば強引に相棒関係となる。メガネの男・ハワードの食えない様子と、偏屈な男・グラントが面倒くさがりながらも彼に手を貸すさまが、テンポの良いセリフとともに描かれる。線が少なく白黒はっきり、洋画のようなスタイリッシュなコマ割りもなんとも格好良い。

住人の皆さんのことは知り尽くしています

ハワード・シュルツは、ニューヨークの高級住宅地・イーストサイドの老舗アパートメントのドアマン。



柔和な笑みを浮かべながら、アパートの隅々まで目を配り、住人たちのことは何でも把握している。

グラント・ムーアはそのアパートの最上階に住む資産家だ。



年をとってもフェイスラインも体もシャープに保ち、仕立てのよいスーツを着こなすが、愛想はなく偏屈。ハワードにもろくに挨拶を返さない。そして、同じアパートに住む少女・エリカは、このグラントのことが大の苦手だ。



3人は特別親しい間柄ではないのだが、ある日突然、ハワードはグラントに相談を持ち掛ける。



エリカがカルト集団の餌食になりかけており、そこから彼女を救出したい、というのだ。





エリカはグラントの冷たい態度に傷つき、反動で一見優し気なカルトの手口に引っかかっている、というのがハワードの主張だが、どう考えても自分には関係ないと渋るグラント。そんな彼に、ハワードはある「訳アリの過去」を突き付けるのだった。

嘘の分かる奴と過ごす時間が恋しくなった



この2人、どちらもある「異能」を持っている。
ハワードは「相手の意思とは逆の行動を取らせる能力」を、



グラントは「相手の意思を読み取る能力」を持つ。



しかし、相手の嘘はわかるが、それ以上に自分の考えていることが顔に出てしまうグラントである。



ゆえに、ハワードの力で思ってもいないことを言わされ、やらされており、彼の力を信じざるを得ない状況だ。

さらに、ハワードはグラントの過去や異能について、数年かけて調べ上げたうえで協力を求めてきているようだ。読者としても「この人どこまで知ってるの?」と不安になる。これは従うしかない。



渋々、しかし火の玉ストレートでエリカに接近するグラント。しかし、エリカは自分の友人がカルトだとは夢にも思っておらず、撃沈。グラントは嘘を見破ることはできても、相手が信じていることについての真偽は判断できないのだ。2人は、エリカの友人を尾行して突き止めたカルトの拠点への侵入を決行するのだった。



エリカの件をきっかけに、多少であるが言葉を交わすようになったハワードとグラント。そんな中、アパートの周囲を探偵らしき男がうろつきはじめる。



彼のターゲットは、新参の住人、ミス・ウィルソン。根掘り葉掘り質問したがる探偵に、ハワードは忠告する。「思いもよらない事件に巻き込まれる前に、ここにはもう近づかないこと」

そこに飛び込んできた知らせは「ミス・ウィルソンが殺された」!
ハワードとグラントは、再び手を組むこととなるが……。

老紳士ふたりの華麗で危険な夜遊び



柔らかい笑みを浮かべつつ、読めない、食えないハワードと、一見近寄りがたいが、実は単細胞なのでは?と疑いたくなるグラントの凸凹コンビっぷりに思わずニンマリしてしまう。彼らの持つ異能も、ひとつでは少し心もとないが、2人そろえば互いを補い合い、何倍もの力を発揮するのもいい。

昼間のかっちりした姿と真逆のラフなスタイルで、闇に紛れて危険なミッションに向かう2人の姿はとてもチャーミング。力を使うときの合図が「ウインク」なのも、絶妙な大人の男の可愛げがある。



いつもにこやかなのに、ハワードのウインクが不慣れな感じなのが可愛らしいし、



しかめっ面で表情筋なんて使っていなそうなグラントが繰り出す、華麗なウインクも意外だ。このギャップがたまらない。

グラントの過去はこの巻である程度分かるが、ハワードについては、探偵ならずともこう思うはずだ。



いや、絶対ただのドアマンじゃないよね!!
こんな感じで、自分のことを聞かれればある程度のことは答えるハワードだが、すべてを、正直に明かしているようにはとても見えない。ページを繰るたび、彼の言うことに引っ掛かりを感じてしまう。
この謎が、住人や探偵、殺し屋も飲み込み、大きなうねりや危険に2人を巻き込むのだろうか。そんな予感がする。
オノ・ナツメ先生による極上のミステリーは、幕を開けたばかりだ。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019

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