話を面白くする方法の1つに、“どんでん返し”を繰り返すというのがあります。
この『相続探偵』は、『SPEC』をはじめとする数々のドラマや映画の脚本家としても有名な西荻弓絵さんが原作を手掛けているだけあって、この“どんでん返し”が見事に効いた話となっています。
遺産相続専門の探偵をやっている灰江七生(はいえなお)。
文字通りハイエナって凄い名前だなと思っていたら、コーヒー豆をそのままガリガリほおばる変人でもありました。
ハイエは、ワイン仲間だったミステリ作家・今畠忍三郎(いまはたにんざぶろう)の通夜の席で、今畠本人が語る遺言ビデオを目にします。
ビデオには「財産のすべてを儂(わし)の老後の面倒をすべて見ていた秘書の桜庭真一氏に相続させる」というものでした。
これに異を唱えたのが、1度も見舞いにすら来なかった金の亡者の3姉妹。
当然この遺言を認めるはずがなく、脅されて言わされたのではないかと疑いを持ちます。そしてハイエに、遺言ビデオに不審な点はないかと聞きます。
翌日、ハイエが今畠の葬儀に行くと、今畠の顧問弁護士である福士遥(ふくしはるか)がいました。
彼の口から、ハイエはいわく付きのとんでもない元弁護士だったことが明かされます。
実は正式な遺言書は、この福士が持っていました。ただし、中身はビデオの内容と全く同じなのです。
遺言書があるのに、なぜわざわざビデオ撮影をしたのか?
しかも、これを言い出したのは今畠先生本人というじゃありませんか!!
今畠先生の遺産を泣かせるような真似は
このハイエが許さねえよ
ここからが、ハイエの出番です。
探偵モノは、どんな相棒と組むのかも楽しみの1つですが、ハイエをサポートするのは、探偵事務所のスタッフで元医大生・三富令子(みとみれいこ)。
そして「民間の鑑定会社に倍のギャラを提示されるなり古巣を秒で捨て去った」という元警視庁科捜研のエース研究員・朝永(ともなが)。
2人の力を借りて、ハイエは謎を次々とひっくり返していきます。その小気味良さと言ったら!!
かなりクセが強めで変人のハイエですが、この仕事に対する確固たる思いが、このセリフからうかがえました。
遺言ってのは
永遠に沈黙してしまった故人の
一つの明確な最後の意志なんですよ
そして最後には、ちょっと笑えるオチも付いていて、まさに探偵ドラマを見ているようです。
さらに巻末には、ハイエ先生による遺言書の書き方など豆知識が載っているのですが、これがわかりやすくてとても親切なのです。
実は、遺言書の書き方については私も知識を持っていたのですが、今回の話に出て来たビデオは盲点でした。えっ、そんな方法があるの? と、私も一杯食わされてしまいました!!
『相続探偵』第1巻は、2つの話が収録されていて、1~4話までがこの「或る小説家の遺言」。
5~6話は「鎌倉の屋敷と兄妹と」。こちらは遺産分割協議がテーマで、兄の口車に乗せられた幼い子を持つ未亡人のために、ハイエ達が加勢します。
親の遺産を巡り兄弟が骨肉の争いになったという話は、実際にも聞いたことがあるので興味津々なのですが、この話は第2巻に続きます。
ちょっと残念ではありますが、ハイエは次にどんな “どんでん返し”を見せてくれるのか、期待したいと思います。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp