「俺さ、けっこう重いから覚悟してね」
自分で自分のことを「重いから」と事前にきちんと言う人は、たぶん何かしらがちゃんと重たい。でもその重たさが心地よいこともあるはずで、特にその人が特別であればあるほど、その重さは甘さに変わります。それに、誰にでも重たい自分を見せているわけじゃないんですよね、きっと。
『君に染まれば』の“比良(ひら)”が誰に「俺さ、重いから」宣言をしたかというと……、
同じクラスの男子“音生(ねお)”。この場面を読んだこちらは「わかりましたー! 重たいのヨロシク!」って感じなんですが、音生は戸惑ってばかり。
二人は「友達」になります。でも距離がすごく近いし、なんだか胸騒ぎが止まらない……。 比良と音生の名場面の数々、ご紹介します。
面倒なときは俺の隣にいればいいじゃん
音生は、ものすごくお人好しな高校生。どのくらいお人好しかというと、全校生徒どころか教師まで頼りにしちゃうレベル。祖母から「困っている人は全力で助けろ」と教わって育った音生にとって、人を助けることは息をするのと同じくらい自然なことです。
だから同じクラスの比良が何かに困っている様子も、見過ごせませんでした。
比良は人気No.1モデルで「今最も有名な高校生」なんて呼ばれる存在。だから学校内でもいつも誰かに追いかけ回されています。どうもそのことで悩んでいるよう。
比良が悩んでいるとはいえ、二人はあんまり話したこともないし、むしろ比良は音生に失礼なことを言うんです(それに対する音生の返事がめちゃくちゃかっこいいので、ぜひ読んでください。惚れたよ)。そんな嫌なやつでも、音生は人として放っておけない。
「面倒なときは俺の隣にいればいいじゃん」! 親切心からの言葉なのに、少女マンガ脳の私にはクラッとくるセリフ。さあ、助けてもらいなよ、比良!
やっぱ嫌なやつ! でもSNSでいろいろ言われちゃう人気モデルの不安や苦しみも垣間見えます。
で、さすがの音生もそこまで言われちゃったら「なんだあいつ!」ってムカつく。でもいざとなったらやっぱり比良を放っておけないんです。
クラスのみんなにどう思われようが、「関係なくね?」って笑われようが構わない。困っている人は全力で助ける!
そんな音生の姿を見た比良は、何かスイッチが入ったよう。
たちまち音生が「友達枠」に登録されてる。しかも、音生のお人好しキャラをいいように使ってきたクラスメイトにも釘を刺します。痛快。あと音生を後ろから抱きかかえるような腕、いいね。
この比良の態度は「友達のフリ」でもなさそうで、音生のLINEは聞くし朝一緒に学校に行こうと言うし、急に距離が近い。そして冒頭で紹介した「俺さ、けっこう重いから覚悟してね」という名言が出るのです。宣言通りの展開が待っています。
音生の好きなことはわかりたい
重いからと自己申告した比良は、音生に対してだけ、ひたすら距離が近い人になっちゃいます。
息がかかりそうな距離。いくら覚悟しても足りないよ。でもこんなキツい言葉を言っちゃうことも。
これも距離の近さの一種に思えますが、音生にしてみれば、おばあちゃんから教え込まれた献身をけなされたようでちょっと辛い。こんなやりとりで気まずくなって距離があいても……?
音生が先生に頼まれた花壇の手入れを一緒に手伝ってくれる! すごーく近づいたり、さっと退いたり、比良の本心はどこにあるの?
やはり近い。安心したよ! 「あなたの好きなものをわかりたい」って、不器用だけどピュアな好意ですね。
そして、「わかりたい」は別の場面でも現れます。どうも比良の一方的な願いではなさそう。
音生が比良に向ける気持ちは、いつも音生が大切にしている「困っている人を全力で助ける」とは似ているようで少し異なる感情に見えます。
ところで、「おいイケメン、距離が近いよ」ってドキドキしているのは音生だけなのでしょうか?
長い長い一瞬。終わってほしくないなあ。お互いがお互いを染めていくようなマンガです。どんな色になっちゃうんでしょう。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori