どっちつかずは心地よい
「女の恋は上書き保存」や「女は一途」は、そうであってほしい人がひねり出した健気な祈りだと思う。女も男も「べつに嫌じゃないし」くらいの理由でウッカリ付き合ってみることはあるだろうし、女たちの過去の恋愛ログのすべてが塵一つ残らない勢いで律儀に抹消されているとも思えない。
ほら、こんな風に落ち着いて思い出せばいろいろ出てこない? ちゃんと引っ張り出せる程度の深さに格納されたかわいい過去があってもヘンじゃないでしょ?
『男たちは寝かせてくれない』が描く恋は絶妙に淡い。大人だって淡い恋をする。むしろ大人のほうが淡くてあいまいな関係になりがちかも。
「どうしよう、こんなの本当の恋人同士みたい」、いいセリフ。言ってみたい。白黒ハッキリしない大人の淡い恋に挟み撃ちされるマンガです。そりゃ寝られないよね、ってなる。それに、どっちつかずの恋って案外心地いいかも……?
睡眠が一番の幸せだったのに
“羽瀬川真琴(はせがわまこと)”は27歳の会社員。週に4日は事務系の仕事をして、あとの3日はいつも家でゴロゴロ寝ている。独身で彼氏はいなくて一人暮らし。
かつてブラック企業で働いて心身を壊した経験をもつ真琴にとって、今のゆるい生活は最高そのもの。彼氏がいないことなんてどうだっていいし、出世にも興味なし。睡眠第一。
ところが、新しい上司の登場によって真琴のゆるゆる会社員生活に暗雲が立ちこめることに。
爆速で昇進し続けるエリート課長の新藤はザ・仕事の鬼。背後に般若が見えてるくらい圧が強い。そんなゴリゴリの上司と真琴が相容れるわけもない。
ハンって笑われちゃってる。これで真琴のやる気に火がつくかといえば、そんなこともない。真琴からみれば新藤は働きすぎ。ああ、このまま真琴と新藤は平行線をたどるのかなと思いきや……?
新藤だって人間、眠いときは眠い。真琴は眠い人の気持ちは非常によくわかるし、働きすぎた人がどうなるかも身をもって知っている。だから新藤を介抱することに。
ん? これは、どういうこと!?
タイトルの由来はこれ。真琴に介抱された新藤は、いきなりキスをした揚げ句「ちょっと考える時間をくれ」とか真面目に言うし、「なに今のは?」とグルグル考えているうちに真琴の目はギンギンにさえてしまう。しかたない、これでグッスリ眠るのは無理だよ。
思わぬ人からのピンポン
新藤とのハプニングに心が乱れつつも、やっと眠れた真琴。ところがこの睡眠も長くは続かない。
大学生時代に一瞬だけ深い仲になった年下の幼なじみ“晴(はる)”が急に真琴の家にやって来るのだ。2人の関係はこんな感じ。
知り合ったばかりの頃はこんな少年だったのに、時が経つにつれどんどん大人になる晴。晴は真琴のことが大好きで大好きで……、
真琴だって晴のことは好き。2人は一線を越えるも、真琴は就職のために上京し、そのままフェードアウト。たまに「元気かなあ」と思い出す存在だったけど、まさか会いに来るなんて!
あんなにかわいかったのに、なんだかパワーアップしてない!? だから真琴はますます眠れない。
こうして真琴の睡眠不足ライフはどんどん深刻に。もうヘロヘロだ。すると!
彼らしいまじめな告白とお試し交際のご提案。真琴は「嫌とかじゃないし、あくまでお試しだし」と自分に言い聞かせながら新藤との仮の交際をスタートさせる。ちなみに「嫌とかじゃないし」と言いつつも、すごくドキドキしている。この点に関しては寝不足が原因じゃないはず。
新藤と真琴の初々しいお試し交際が始まる一方で、おしかけボーイの晴も存在感を増していく。
なんだか手料理を振る舞ってくれたり! 得意そうな顔がかわいい。でも晴ってどんな存在? 関係は数年前に終わっているし、真琴が新藤に教えているLINEだって晴は知らない(だから晴はSMSで連絡してくるんです、この距離感が生々しい)。
真琴にしてみれば年下の甘えん坊の幼なじみがなぜかペタペタまとわりついて困っちゃう状態なのだけど……、
え、真琴どうするの!? どっちにするの? いや、どっちも素敵だし、すぐには決められないかもしれないけれど、答えを聞かせてほしい! 気になって寝れないよ。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。