バンドマンはなぜ私を振り回すのか
バンドマンは、なぜか警戒されやすい。
「バンドマンと付き合うと大変だから気をつけよう! ちなみにベーシストに要注意!」みたいなメッセージが、まことしやかにSNSで語り継がれてきました。つまり大変な思いをしたバンドマンの恋人および元恋人が多数いるのでしょう。でも、彼女たちの警告には、「だって好きなんだもん」みたいな諦めとプライドが漂っているように感じます。愛おしい。
だから私はそれを警告として受け取れない。「気をつけよう!」と言ったところで結局アッサリ好きになっちゃうような、強烈な引力を持つ存在であることの証に思えてしょうがない。そそられる。
そう、バンドマンが悪いんじゃないんですよ。バンドマンに恋した人は、みずから望んで振り回されている。
『むせるくらいの愛をあげる』は、バンドマンと恋に落ちる女の子の物語。振り回され、自由な世界に連れ出され、新しい自分を見つけていきます。「バンドマンのここに注意(=ものすごく良い! 好き!)」を凝縮した少女マンガです。
この「華」に心を射抜かれるんですよね。わかるわかる。しょうがないよ、降参!
ギターピックに書かれた連絡先
美大のデザイン科に通う“ひばり”は、バイト先のラーメン屋でわいわい騒ぐバンドマンに出会います。最初は「ガラ悪いな」なんて思っていたし、課題提出の前日だっていうのにPCを壊されちゃうし最悪……だったのだけど。
ボーカルの“ガク”が、お詫びに自分のパソコンを使ってくださいとひばりに申し出ます。ガクは同じ美大の油絵科に通っているそう(バンドメンバー各位も同じ美大の学生です)。
このガクがとても自由かつバンドマンなのです。私が大好きなタイプ。たとえば自己紹介の時点で100点満点のバンドマン。
距離が近いしサラッと「可愛い名前」なんて言っちゃう。頬杖の角度までカッコいい。
彼の自由さはこんなところからも察せられます。
ひばりの課題にガンガンくち出し。でもその指摘は、ひばりのクリエイターとしての悩みを突く内容なんです。「真面目だねえ」と評されがちのひばりの殻を破るきっかけになるかも?
ガクは、ひばりが今まで誰にも言われたことがないようなポジティブな感想もくれます。ああ、美大生の青春だなあってニコニコしてたら、ガクのバンドマン的アクションが再び!
ガクの携帯の番号つきのギターピック! キャッチしたいよー!!!!
ライブ、楽屋、アトリエ、そして打ち上げ
ガクのおかげで課題も提出できて、先生からの講評でも過去最高に褒められたひばり。ここから少しずつガクへの興味が増してきて、ガクたちのバンド「パンテラネグラ」のライブを観に行きます。
これが当然のようにカッコよくて、客席のすみっこに立つひばりは「ガクって遠い世界の人なんだなあ」と圧倒されるのですが、本作はここでバンドマンとの恋のツボを強く押します。
そう、バンドマンとの恋愛における究極の憧れスポット「本番後の楽屋」です。
汗、タオル、シチュエーション、セリフ。そのすべてが私の夢。
まだまだ続きますよ。
パンテネグラのフライヤー制作の依頼! ひばりはデザイン科の子ですもんね。バンドのいち観客ではなくなる! 楽屋にいる他のバンドメンバーがこれまた素敵(私はリーダーの“黒澤さん”が好き。タバコ片手にひばりを礼儀正しく「ひばりさん」って呼ぶところにグッとくる)。
で、ここで私のように「きゃー」と浮かれないひばりが、とてもかわいい。ガクはどうせモテるんでしょ、いろんな女の子とそうやって距離詰めていくんでしょ、だってバンドマンだし、って。そんな彼女にガクの意外な一面を教えてくれるのがバンドメンバーなのです。いいよね、最強の布陣だ。
黒澤さん、なにかと警告されまくりのバンドマンとの恋で一番聞きたい最高の言葉をありがとう。
ガクはライブハウスの外でもひたすら色気を放ちます。美大のアトリエでひばりと一緒に作品を作っていると……?
強引だし自由だし、こっちの息がもたないよ。
『むせるほどの愛をあげる』は、各話の最後に必ず心臓のピークが訪れます。ライブの直後みたいにボーッとしながら次のお話を待ってしまう。
そうそう、バンドマンとの恋といえば、こんな空間にも憧れます。ライブ後の打ち上げ! 本作にもちゃーんと出てきますよ。
二人して打ち上げを抜け出すの……? ここを読んで私も叫びたくなりました。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori