親が築いた会社を継いで、そのまま社長になれる人は、いいよなぁ~。就職活動も出世争いも無縁で、すぐ偉くなれるなんて、ずるいよなぁ~と何度思ったことか。
しかし、『踊れ獅子堂賢』の主人公を見ていたら、同情すら覚え、思わず応援したくなりました。
5年前、父親の大病をきっかけに、小さな広告代理店から、大手女性下着メーカー「シェリル」で働くことになった獅子堂賢(40歳)。
昨年から社長になったものの、歳上の秘書や役員たちからは、なめられてばかり。
ところが採用面接で、最初から不採用が決まっていた椎名まなかを独断で採用してしまいます。大ピンチでも、負けじと立ち上がる彼女の姿に心を打たれたからでした。
一方獅子堂は、雑誌のインタビュー記事ですら秘書が勝手に対応し、事後報告を受けるだけ。
これはさすがに酷い!! 自分の存在自体を否定されたようなものですから。
しかし怒るどころか、引きつった笑顔でその場を収めてしまう獅子堂。
だから一層なめられてしまうわけですが、穏便に済ませようとするこの気持ち、痛いほどわかります!!
実は獅子堂も、自分に自信がなく、若い頃のような情熱を失っていることに自分自身で気づいているのです。
そんな気持ちを持て余しながらもどうしたらいいのかわからず、思わず獅子堂が向かったのは、学生時代からシェリル入社前まで通っていたボクシングジム。
意気込んでドアを開けると、なんとそこは社交ダンス教室に変わっていました!!
ここで、週に2回ダンス講師をしているのが、新入社員の椎名まなか。
会社では髪を束ね、メガネで地味なまなかですが、ダンスになると変身!?します。
このスイッチの入り方が、妙におかしい!!
駐車場にある、ひと気のない喫煙所でも突然……、
社員食堂でご飯を食べている時も、「ステップおさらいしてみますか?」と言うまなか。「こ……ここで……?」と、戸惑う獅子堂ですが……。
何でしょ、笑えるのに指ダンスが妙にエロティック!!
会社では相変わらず不甲斐ないままで、変わりたいのにどうすれば良いのかもわからない獅子堂。
確かにある程度の年になると、若い頃のようにがむしゃらにというわけにはいかないし、いい年をしてグチるわけにもいかないし。
それ以前に昔の友達とは距離ができて、新しい友達も作りにくいし……、という微妙な感じが伝わってきて身に沁みます。
しかし、まなかとの出会いが、ダンスとの出会いが、獅子堂の人生を少しずつ変えていきます。
まなかからのたび重なる勧誘で、ついにダンス教室に入会する獅子堂。
偉大な父親と目を合わすこともできず、役員会では意見を言うこともできず、素晴らしい提案を押し通すこともできなかった獅子堂が、悩みながらも起死回生してゆく姿は見ていて気持ちいい!!
そして何より、獅子堂の不器用で泥臭くて、でも心優しい姿に、思わず頑張れ!!と言いたくなります。
40歳といえば不惑と呼ばれる年。
しかし、「これは俺の人生が変わる物語 」というように、まだまだこれから!!という気持ちにさせてくれるお話です。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp