『光のメゾン』を初めて読んだ時、楽しい!が絵の中から溢れ出している! と思いました。夢に向かってまっしぐらな主人公達がとても眩しくて、とにかく前向きだからです。
五十嵐千(いがらしせん)と橋口燦(はしぐちさん)は幼馴染みで、家族ぐるみの付き合いがある大の仲良し。2人の子供の頃からの夢は、デザイナーになって一緒にパリコレでショーをやること。
そのため同じ服飾専門学校に通い、日本で御三家に入るアパレル会社に入社します。
ところが入社早々目撃したのは、先輩と殴り合いの喧嘩をする同期の宗方市(むなかたいち)。
実は彼はサンの隣の部屋に住んでいて、最初の出会いも最悪でした。
アウトローで性格も屈折している市ですが、著名なデザイナーを何人も輩出しているロンドンの芸術大学を日本人最年少で卒業し、母親も有名なデザイナーという、この世界ではちょっとした有名人。
そんな市を含め15人のデザイナー志望と一緒に、ひたすらアイロンがけという新人研修をすることになる千とサン。
ある日、社長が直々に出した課題、デザイン画100枚!!のプレゼンが行われます。
ところが市は1枚も提出せず、注意されると「じゃあもうクビでいいです!」と言い出す始末。
この男、完全にひねくれ者です! 千やサンとは対照的に、性格がひん曲がってます!
しかし、ずば抜けた才能の持ち主であることを知っている社長は、宗方市の名を冠した新ラインの立ち上げを企画、その右腕として抜擢されたのがサンでした。
実はデザイン画の講評では社長から「ぜーんぶ面白くなかったです」と言われ、千の方が評価は高かったのですが、選ばれたのはサン。
こういうとき、決して僻(ひが)んだり妬(ねた)んだりしないのが千のいいところで、この大らかで前向きな明るさがこの作品のトーンを決定づけていると思います。
とはいえ、デザイナーになれないかもと焦る気持ちも抱えているのも事実。
そんな千に対して市は……。
かなり意地悪な男です、宗方市は。
一緒に組んでいるサンに生地の調達を依頼した時も……。
とても同期とは思えない辛辣なコメント。
しかし、自分の不甲斐なさを一番感じているのは市なのです。自分が作った服を海外の御重鎮(オーソリティ)に叩かれたショックが、尾を引いているのです。
だから以前、「こんなにピカピカの才能があるのに!」と千が言ったときも……。
実力がある人ほど自分の作品を客観的に見極める目を持っているので、情熱だけでは進めないことや、その世界の怖さを知っているのだと思います。
そんなとき社長から、「東京コレクション」に出すので、国内NO.1のファッション誌「VoCE di moda(ヴォーチェ・ディ・モーダ)」の表紙を飾るように! という使命を言い渡される市。
市が再びパリコレに戻りたがっていることを社長は気づいていたのです。
一方、夢に一直線、怖いもの知らずの千はパタンナーの所に行き、市が描いたデザインと同じものを作らせて欲しいと直訴します。
「自分だって東コレに出たいです!! どうかおねしゃす!」と。
チャンスを待つのではなく、自分からもぎ取りに行こうとするこの行動力が眩(まぶ)しい!!
この先、千なら何かをやってくれるのではないかという期待感と、サンが市をどう蘇らせるのかが見ものです。
さらに彼らを脅かす存在になりそうなライバルも登場します。
ちょっと元気がない人も、読んだら絶対に希望が持てる、そんな心が晴わたるような作品です!!
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp