お菓子とお酒を一緒に
満腹な夜でもバーに行けばお酒を飲めるのはなぜなんだろうか。しかも、お腹いっぱいだとわかっているのに、おつまみで出されるチョコレートやレーズンバターも必ず口に運ぶ。コース料理の最後に出てくる小さなお菓子も大好きだ。少しだけ残った赤ワインを片手に焼き菓子をつまむと最高に楽しい。カロリーが積み上がっていく音を気持ちよく無視してぺろりといける。
美食マンガ『BOOZE&SWEETS~酒と菓子の日々~』は、お酒とお菓子をいっしょに味わう楽しさを教えてくれる。本作の舞台はバー“APPLE PIE”。ここで出されるおつまみはお菓子。チョコレートやラムレーズンを出してくれるバーは沢山あるけれど、気合の入り方が違うのだ。
日本酒のおつまみとして登場したのはいちごのショートケーキ。どっちも大好物。でも組み合わせたことはまだない。いいの?
いい! 表情と感想の説得力がものすごい。読みながら口の中で味をくっきり想像できる。甘いもの好きの酒飲み“水原詩乃”は、このバーでスイーツとお酒のマリアージュに目覚める。
お酒はパラメーターと物語をいっぱい持ってる飲み物。そうそう、こういうのを読みたいんですよ。
お菓子とお酒のめくるめくマリアージュで快楽物質が止まらない美食マンガだ。
酒飲みが夢見るようなバー
バー“APPLE PIE”の魅力をもう少し語りたい。酒飲みの夢を凝縮したようなバーなのだ。近所にあったら毎週通ってる。
酒屋に併設されたバーなのでお酒の品揃えが非常に豊富。しかも「隣の店から好きなのとってきてもかまわないよ」「缶ビールや缶チューハイは定価にプラス150円」など「いいんですか!?」と聞き返したくなるような営業形態とホスピタリティだ。ドリーム!
そして登場するお菓子の種類も豊富。
中国菓子の個性を引き立てるようなお酒はどれ? 中国酒? いや、そんな安易な世界ではない。ここでこのお店の豊かさが活きてくるのだ。無限の組み合わせから相性最高のお酒が供される。でも「ちょっとちがうかも?」となることも。
さすが甘いもの好きの酒飲み女子。欲望のまま繰り出される詩乃の感想は本当に参考になる。さらなるマリアージュを考えるバーのマスターといい、そんなことお構いなしでビーフジャーキー片手にお酒をあおる常連客の“クロウさん”もいい。私はクロウさんがこのお店に通い詰める理由がよくわかる。
APPLE PIEにはいろんなお客さんが集う。
ああ、居合わせたい。お菓子とレモンの知識がバチバチ飛び交うカウンターのすみっこで、聞き耳立てつつお酒をちびちび飲めたらどんなに愉快だろう。
本作に登場するのはめずらしいお菓子やお酒だけじゃない。コンビニやスーパーで手に入るこんな身近な組み合わせも愛情たっぷりに描かれる。
おいしそうだ。ここでも詩乃の感想はやっぱり楽しい。おいしさを解像度高く素直に表現してくれる。
おいしさって舌で感じる味だけの話じゃないんですよね。サントリーとグリコの人に読んでもらいたいよ。
最後のコマの組み合わせも最高だ。ブランデーがつまったバッカスは冬のお楽しみ。本作で紹介される“ある一手間”を経たコアントローと一緒にいただきたい。
各エピソードのあとに収録された原作の島田英次郎さんによる手書きコラムもお酒とお菓子への愛があふれている。「スイーツと一番合わせづらい酒は白ワインじゃないかと思ってる。いや、合わないんじゃなくって合わせるのが難しいって意味ね」とか、くわしく聞かせてください! って話の宝庫。隅から隅まで濃密においしいマンガだ。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。