『恋じゃねえから』というタイトルに、強がってる主人公の恋愛話か!?と思ったら、冒頭からリアルだけどドキリとする展開で、読み終わった時には、だから『恋じゃねえから』なのか!! と納得してしまいました。
とにかく、自分の心と向き合わされ、考えさせられる作品です!!
出産を機に退職し、夫と中学生の娘と「完ぺきとは言えないけど御の字の生活」を送っている茜(あかね)40歳。
しかし本心では、古くからの友人とのズレや距離を感じ、臆病で不自由になっていく自分に対し、情けなさや寂しさを抱えていました。
ある日、中学時代の塾講師だった今井透が彫刻家になったことを知り、個展へ足を運ぶと、当時の親友、川瀬紫(かわせゆかり)に似た彫刻を見つけます。
この彫刻を見たことで、無性に紫に会って話がしたいと思う茜。
というのも紫とは、ある出来事をきっかけに疎遠となり、そのことを後悔していたからです。
そこで紫を探し出し、久しぶり会った茜は、あの頃のことを謝ります。
茜は、紫からの「助けて」というハンドサインに気づいていたにもかかわらず、無視をしてしまったのです。
そして懐かしさのあまり、ずっと持ち続けていた当時の紫の写真を見せます。
もし私が紫だったら、いたたまれない気持ちになったでしょう。
しかし、この26年前の写真が残っていたことで、少女像が紫をモデルにした疑いが明らかに。お腹の手術跡まで、紫と似通っているのですから。
散々悩んだ挙句(あげく)、彫刻の展示を取りやめてもらうため、2人は今井に会うことを決意します。
実は、ここまでの茜や紫の心の揺らぎが丁寧に描かれ、とても考えさせられました。私自身も、その場で怒ったり声をあげることができない性質だからです。
茜の場合は、本音や感情を言わずに溜めまくったことで摂食障害となり、今もお酒に逃げています。
紫の場合は、先生に写真を撮りたいと言われたとき、拒めずにいました。
そこには恋愛感情があったからで、まさかこんな形で世の中に出されるとは思いもしなかったからです。
このお話は「創作と性加害をめぐる問題作」と本の帯に書いてあるように、「アート(表現)であれば許されるのか」という問題が突きつけられます。
だから茜と紫、今井と今井のマネージメントを担当する妻とのやり取りは、息が詰まりそうなくらいの緊迫感で、一体どこまでが許されて、どこからが許されないのか考えさせられました。
さらにサブストーリーとして、リベンジポルノの話や整形前の写真を勝手に出された話など、今の世相を表す事柄も出てきます。
確かに、人のプライベートをここまで晒していいものかということや、時を経てやっと言えるようになった性被害の告発などをSNSでもよく目にするようになりました。
さすが、セックスレス夫婦という世情を「婚外恋愛許可制(公認不倫)」という新しい視点で描き、紙・電子の累計135万部の大ヒットとなった『1122(いいふうふ)』の渡辺ペコ先生です。
心の中にしまっていた、あるいは見ないふりをしていたリアルな本音が、この作品にも溢れています。
あなただったら、どう感じるのか? 異色の問題作で、ぜひ確かめてみて下さい。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp