「新しいこと」なんて、もうないと思っていたのに
人生を1日にたとえると「40歳」ってどのくらいの時間帯なのだろう。日本人の女性の平均寿命で考えるなら正午をまわったくらいか。あれ、意外と真っ昼間だ。
そう、アラフォー女性の人生って、実は真っ昼間なんです。紫外線だって強いし、クッキーと紅茶でひと休みしたっていいし、ひょっとしたらゲリラ豪雨でずぶ濡れになるかもしれない。夕焼けに見惚れたり、カレーでおなかいっぱいになったり、ふかふかのベッドに潜り込んでマンガを読む時間はまだ少し先の話。
でも、『いま「余生」って言いました?』のヒロイン“藤野玲奈”の気持ちもよくわかる。彼女は39歳にして自分のこれからの人生を「余生」と呼びます。真っ昼間なのに、玲奈の気分としてはもはや人生は日暮れなのです。
さらーっとナチュラルに「余生」と口にしてる。玲奈は高2の息子を1人で育てるシングルマザーで、文房具メーカーの企画部に勤めています。
つまり、いっぱいがんばって生きてきた女性です。がんばって育てた息子は成長して少年から青年になりつつあるし、職場の仲間もどんどん年下がふえていく。
世界の新陳代謝と自分の生命力の歩幅が合わないなと感じる瞬間もあるかもしれません(私はめっちゃある)。
で、それなりの年数を生きて形になってきたものだってあるから、総合的に「そろそろ人生終盤かな?」って判断するわけですよ。カラフルで鮮明な世界は自分の頭上を通り越して自分とは関係ない方向へ飛んで行っちゃうのかな、って。自分は穏やかに取り残されてもいいかな、って。
でも、本当にそうなんでしょうか。いやいやいや。
めちゃ年下(そして非常に男前!)の新入社員からガチ恋を打ち明けられたり。
大学生の頃に片想いしていた先輩と偶然再会して「ノーブルな美しさがあるよ」なんて言われたり。先輩も美しいですよ……。
そうこうしているうちに別れた夫まで参戦! 夫、メンタル強そうだし元気だな。
もはや「恋愛」や「新しいこと」なんてない、そう思っていた玲奈の人生が一気に忙しくなるのです。世界は彼女を放っておかない。
いいぞ───!
ラベリングして諦めてるよね
『いま「余生」って言いました?』はヒロインの玲奈がモテてモテてモテまくるだけでは終わりません。私は玲奈の生き方がとても好きです。
たとえば、恋愛体質で肉食美人の女友達“みゆき”とのやりとり。
「子持ち」「母」「地味」と自分をラベリングして「恋」を諦めているんじゃない? ビールジョッキ片手にズバッと指摘するみゆきに、玲奈ともども私も「はっ」となる。ちなみに、対照的な人生を選ぶみゆきと玲奈の楽しいおしゃべりは読むと元気が出る。
大人になってから実感する女友達のいとしさが詰まってる。おすすめ。
で、いくら「ラベリングして幸せを諦めてる!」と大好きな友達に説教されても、玲奈は「はい、今日からラベリングやめまーす」なんてならないんですよ。だって彼女は余生の人だし、これまでがんばって重ねてきた人生があるから。
わかる。私も「この人は何系だな」って分けることで平和に暮らしてます。
この行ったり来たりが楽しいんです。地に足のついた感じを大切にする瞬間と、「やっぱり恋をしよう!」と決心してラベルをペリッとひっぺがす瞬間が交互に現れる。大人の展開。
まあ、昔大好きだった先輩の“白澤”だって歳を重ねてますます素敵ですし。加齢ばんざい。
39年培ってきたラベリングが吹っ飛ぶのもやむなし。しかも白澤氏は現在は画家として活躍中。そりゃラベルもファイルも空を舞うね。
でも! ラベリングをぶん投げたまま生きていくなんて、大人にはできない。
守りたいものと無視できないものがたくさんある。息子はこんなにかわいいし。
とはいえやっぱり玲奈の余生をモテが揺さぶりつづけます。
22歳の新入社員“遥”の言葉に「たしかに……」となる。揺れるー! ちなみに玲奈と遥は「ある秘密」によってただの同僚以上の関係になります。この秘密は、いわゆる玲奈の考える「ラベリング」から外れた場所にあって、それがなんともかわいらしいのです。ラベリングに徹している人にも、ラベルなしの部分ってあるんですよね。
ということで、玲奈の余生はすこしも穏やかじゃありません。残りの人生、グラングラン揺れます!