傷ついた心に差し出されたイケメンの手(しかも3人分)
くたくたに疲れ切って、傷ついて、もはや自分のことを少しも大事にできないときに誰かが作ってくれたおいしいごはんを食べてしまったら、泣くだろうな。
きっとこんなふうに泣いてしまう。ダシのきいたれんこんを頬張ってぼたぼた泣いてるこちらの女性は“伊達司紗(だてつかさ)”。34歳。『恋じゃないなら名前をつけて』は、この勇ましい名前を持つアラサー女子の人生が豪快に大破し、更地になったところから始まる。
そして、そんな人生再建中の司紗のまわりにはタイプの違うイケメンが続々と現れる。
その1。おいしいコーヒーを淹れてくれるイケメン。
ちょっと謎めいた男だけど、包容力はバツグン。
次! 年下人気モデル。
そんな顔で見つめないでよ~~~!
イケメンまだまだいるよ! エリート上司。
いつだってさりげなく司紗をバックアップしてくれるイケメン。
そう、司紗の人生にぐいぐい食い込むイケメンが3人もいるのだ。さあ、どう人生をリスタートする?
部屋もコスメも服も靴も、身の丈以上
司紗は外資系企業の花形部署で活躍する34歳。
社内恋愛で恋人に二股をかけられ関係が終わろうが(しかも元カレは乗り換えた相手と結婚!)、涼しい顔してハイヒールをカツカツ鳴らしながら歩く強い女……、
ではないんですよね。毎日ゲロ吐きそうなくらいつらい。でも、負けるものかとお化粧のコンパクトを開き、口紅を引き、必死に自分を鼓舞する毎日。このひたすら武装するような感じ、すごくわかるなあ……。
そして追い討ちをかけるように仕事でも行き詰まり、やけっぱちになって会社をやめてしまいます。あーああ。
事態はさらに悪化。
家賃滞納により部屋を出て行くことに。司紗は稼いだものをすべて使い切ってしまう前のめりなタイプの人間で、かつ、強烈なストレスがかかって衝動的に仕事も辞めちゃったので、貯えなんてないし、家賃の引き落としも止まっちゃうし、容赦無く生活が詰むんですよね。めちゃくちゃ共感できる。怖い!
ということで、司紗はあれよあれよというまに仕事と恋愛どころか生活をも失います。さあどうしよう、何も考えられないや……と、炎天下のもと、公園のベンチに腰掛けて呆然としているところに、“彼”が現れます。
はい、イケメン1人目。
彼が司紗の手を引いて入って行ったのは、古民家風の建物。
いい佇(たたず)まいのお店だなあ。なにもかも失って身ひとつとスーツケースひとつだけになった司紗は、ここで人生のリスタートを切ることに。
どんどんイケメンが現れる!
第1イケメン“悠輝”はケータリング店を営んでいます。
おいしそう。いやされる……! もうね、悠輝の応急処置っぷりがすばらしいんです。とりいそぎ命をつなぐために食べ物を与え、話を聞き、ベッドも貸す。そして住むところも働くところもない司紗に、自分のケータリング店の一角で暮らし、店で働くことを提案します。社会との接点を作り、人生の再出発までお手伝いしちゃう。
で、このまま悠輝といい感じになるのかなと思いきや、負けず劣らずなイケメンがどんどん現れる。どっちを見ていればいいの!?
毒舌だけども美意識の高い年下イケメン“染太郎”。人気モデルで、どういうわけだか悠輝の家で暮らしています。最初は司紗のことをツーンと見下していた染太郎ですが、徐々に態度が変わってきます。
というのも、人生が大崩壊したとはいえ司紗ってすごくタフで努力家なんですよ。
料理なんてしたことないのにケータリング屋さんで働くことになっちゃったから、まずは掃除を必死になって頑張るし、染太郎に冷たくされても司紗なりのやりかたで次第に打ち解けていきます。「武将みたいな名前なのに落武者キャラ」なんて笑われているけれど、実はすごく強い人なんじゃないかなあ(資産形成は無だったけども)。
だから、そんな司紗のいいところを昔から知っている人も彼女をほっとかない。
司紗の会社の同期かつ上司の“柿崎”。スーツ姿のイケメンもちゃんと本作には出てくるんだよなあ、良い。
これはイケメンのパノラマ漫画だわとホクホクしていたら、癒し担当の悠輝も思わせぶりなことを司紗に言ったり。
悠輝、染太郎、柿崎、それぞれが司紗のことを特別扱いし始めます。ああ、イケメンの行列が全員こっちを見てるなんて。いい。「人生がぶっ壊れたら心優しいイケメンが3人も現れました」っていい展開だ。司紗のガッツある人生再出発の様子を応援しつつ、どのイケメンがいいかなあって惑いながら読んでください。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。