「代わりに言ってくれ~!」
絶対に失敗することなく好きな相手に告白するためには何が必要だろう。まず勇気、それから勝算、あとは愛と運と機を見るセンスと最適な気象条件とフワッといい感じの空間と……、あー「絶対に失敗しない」って無理だ。そもそも小心者には「まず勇気」がハードル高すぎる。できることなら代理を立てたい。
そうやって踏み込めないまま遠くなっちゃって実るタイミングを失った恋って無数にあるんだろうな。
だから『ドッペルさん』の服部さんがとてもうらやましい。
ずーっと言えなかった大切な本音を大好きな人に伝えてくれる存在がいるのだから。しかもそのメッセンジャーは自分と同じ姿形をしたドッペルゲンガーなんです。友達から又聞きするよりリアル。
なんか怖い女の子の胸の内
主人公の“山本”はいわゆる陰キャ。高校に入学して2ヵ月たってるのに部活に入ってないし(部活必須の高校なのに!)、スマホの連絡先の登録者数は5件(うち家族以外は友達1人!)っていう男子です。
そんなミニマムな人間関係だから揉めるはずもない山本なのに、“服部さん”の態度はなんだかキツい。
同じ中学出身で顔見知りの服部さんは山本に対して超無愛想で、なんなら敵意っぽいものすら匂わせます。なんか怒らせることしたかな? 山本には覚えがないし、陰キャなので服部さんに確かめることもできません。
この硬直しきった関係をガラっと一変させる存在が“ドッペルさん”です。
ドッペルさんは服部さんに生写しだけど、服部さんとはちょっと違う女の子。彼女は服部さんのドッペルゲンガーで、山本にだけ姿が見えて、山本の頭の中で交信して、冒頭で紹介したとおり「このコ、キミのこと好きだよ」と服部さんの本音をバラします。
ドッペルさんいわく、服部さんは実はたいへん奥手な女の子で山本にどうアプローチしたらいいのかわからず、長年片想い中なのだそう。陰キャの山本じゃなくてもこれはわからない。
ということで、奥手かつ小心者な服部さんのかわりにドッペルさんが本音をガンガン開示します。
情報開示するだけじゃなくアシストもする。いいなあ。というか服部さんなりに「二人きりになりたい」と努力してたのか……かわいいな。あとビジュアルもかわいい。白ギャルの服部さんと黒ギャルのドッペルさんの組み合わせがとてもいい。
ドッペルさんにけしかけられた山本は……、
陰キャだけど女子と一緒に帰ってみたい。誘え山本!
誘い慣れてなさ満点で全然遠回しに言えてないけれども、がんばって言った! そして「は?」っていう服部さんのとっさの反応に笑う。まさに不器用と不器用のぶつかり合い。
服部さんはこのまま山本を睨んでしまうのか?
かわいい~! 最初あんな怖い顔してたのに! ああもう全力で応援したい。
伝わりづらいけど自分の意思で動いてる
ドッペルさんはその後も伝書鳩のように服部さんの本音をせっせと山本に届けます。そしてただ伝えるだけじゃなく、すごく大事なことも山本に教えてくれます。
大好きな山本が右に行けば服部さんも右に行きたい。それって自分の意思がない? 服部さんは「自分を持っていない女の子」なんでしょうか?
「少しでも山本に近づきたい」は服部さんの強い意思です。ただ「好きだよ」って言えないだけで、そこには意思がめちゃくちゃある。伝わりづらくて見えてなくても服部さんの気持ちと行動はとても強い。
じゃあ、陰キャだし女の子と付き合ったこともないし、そもそも服部さんのことを「美人だけど怖いな~」と思っていた山本はどうすればいいんでしょう? いや、山本はどうしたいんでしょう?
ドッペルさん、本当いいこと言う。いったい何者なんだろう。服部さんの隠された趣味やドッペルさんのささいな仕草などを勝手に深掘りしながら、私は服部さんと山本と奮闘するドッペルさんを応援してます。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。