無数のトゲが刺さる
自意識と鬱屈でパツパツになりがちな10代の頃、自分がどういうポジションにいたかを覚えているだろうか。「陰キャでした(笑)」と苦笑する人もいれば「サイコーだった!」と真っ白な歯をのぞかせる人もいるはず。もちろん「別にふつうかな」とそっけない人だっているだろう。『スポットライト』はそのすべてに容赦がない。どんなに用心深く武装して読んでも心がツーンと痛む。1ページ読むたびに小さなトゲがびっしり刺さって大変だ。
そんな顔で、そんなこと言わないでってば。でも「確かに……」と認めるしかない。
「キラキラピーポー」をモブが撮る
主人公の“斎藤恭平”は大学1年生。ある日、同級生から花見の撮影係を頼まれる。
ここで「あれ?」と思うのだ。この花見、いったい何月の花見なんだ? 入学したての春にしては関係性の濃淡がいびつだ。これ3月の花見なんですよ。つまり大学に入って11ヵ月経過して、そろそろ学年が終わっちゃうぞってタイミングでやっと「初絡みなのにいきなりゴメン!」とクラスの女子から話しかけられている。
斎藤は教室で目立つことがなく同級生との交流も少ないタイプ。すなわち"陰キャ"だ。そんな陰キャなのに斎藤はカメラマンを引き受けることに。この序盤から本作の辛辣(しんらつ)さがしみる。
斎藤よ、なぜこの1年間春も夏も秋も冬も交流がなかった自分に向かっていきなり無遠慮なお願い事をし、そのうえ「超モブ扱い」までするような大変失礼な人間たちの写真を乞われるままに撮ったりするんだ。お人好しか? そんなにカメラが好きなのか? ちがう。
その花見に“彼女”がいるからだ。
“小川あやめ”。斎藤は同じクラスにいるあやめに入学早々一目惚れをした。彼女はクラスの友達からサプライズで誕生日を祝われるような子で、“キラキラピーポー”たちのグループの住人。
対する斎藤は自他共に認めるモブ的存在だし、あやめに話しかけることすら無理。というか自分のことをクラスにいる人間としてあやめが識別しているかどうかすら斎藤は知らない。11ヵ月間も! で、ひたすら何をしているかというと……、
盗撮だ。一歩間違えたら捕まるぞ斎藤。
ところが。こんな日陰オブ日陰の盗撮男が、ある事件をきっかけに学園祭のミスコンのカメラマンになる。そしてそのミスコンにあやめが出場するのだ。
もしかしてこのマンガ、このまま「俺のカメラが君をミスコン優勝に導く!」みたいなスカッとした展開になって全員がキラめくの? と油断していたら盛大にブン殴られた。ああこれでこそアフタヌーン作品だ。
人間を構成する全ての要素が評価基準
青春ってすこしもイージーじゃないし、むしろ痛々しい。『スポットライト』はキラキライベントの最たるものである「ミスコン」を舞台装置の真ん中に据えて、陰キャと陽キャの青春を描く。みんなちゃんと痛いのだ。
ただ見た目がいいだけじゃ勝てないミスコンで他人に評価されて、優勝して、スポットライトをあびたいのはなぜ?
ある人は芸能界に行きたいから。でも斎藤の辛辣なツッコミを聞いたミスコン経験者は……?
この反応。そりゃ怒るよね。でも斎藤の言うことはもっとも。(しかも彼女は2位)
じゃあ、あやめはなぜミスコンに出るのか。このマンガは読めば読むほどあやめの厄介さが面白い。魅力的かつ超絶めんどくさい人間だと思う。
あぐらをかいてカップ麺を食べるサバサバ美女で、斎藤とも損得感情抜きで気さくに話すナイスな女子大生……と思いきや、ちょいちょい刃物を剥(む)き出しにする。
キラキラピーポーに対する冷めた目! で、ここでアンチキラキラな斎藤はちょっと油断するわけです。あやめは俺のことわかってくれるかな? って。じゃあ「わかってる」ってなんなんでしょう。
あやめは斎藤のこともスパッと断じる。しかもこれ「あなたは魅力的だからミスコンで勝てますよ!」と斎藤があやめに言った直後の反応だ。ミスコン出るんだよね!?
この「あなたは私の全てを知っているの?」が、登場人物すべてにひたすらついて回るマンガだ。斎藤の卑屈さを刺しつづけるし、「人間を構成する全ての要素を評価基準とする」なんて大会に挑むあやめ自身にも突き刺さる。
やがてあやめは斎藤による盗撮を知ることに。
2021年早々にこんな地獄な場面を読むとは。コソコソ盗撮していたあの頃に時間を巻き戻したい? いや、このままトゲだらけで転がるしかない。そうしないと「あなたが好き」の理由だって「自分」のことだって、みんなが抱える痛々しさの正体だって、きっと誰にもわからないからだ。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。