スポーツってやっぱり楽しい!
「体育が苦手だったけど、大人になってスポーツを始めたらとても楽しい」という人は多い。私もその部類で、今じゃスポーツウオッチがベタ付きで活動量を測っているけれど、小中高の50m走は自己ベストが11秒だったし、ハンドボール投げなんて謎の儀式だと思っていたし、だから運動系の部活なんてもっての外だと信じていた。
『走れ! 川田くん』の主人公“川田くん”たちを見て「こういう部活も楽しかったんだろうな」と思い直しているところだ。いろんな子がいろんな理由で集まっているのだ。
それぞれ味があって、いいなあと思う。
そして、大人になった私たちが「スポーツおもしろい!」と感じるツボも本作でわかった。それは冒頭から始まる。
映画「2001年宇宙の旅」の冒頭でケンカしてたサル? ああ、人類の祖先か……って、私スポーツマンガを読むつもりだったんだけど? いや、これは「走る」を真正面から考えたイントロダクションなのだ。とくに長距離走。本作が描くのは「高校駅伝」だ。
なんにも取り柄のない子が長距離の新星だった!
主人公の“川田ゲン”は高校2年生。勉強もできないし運動も苦手。体格はいいのに体育教科で成績1を叩き出すレベルの男だ。「体格はいいのに」がミソ。冴えなさが際立つ。
このよくわかんないポーズで震えながら彼が挑もうとしているのは100m走。だめだ~。
ああやっぱり遅いね。でも……?
フォームはとても綺麗。そんな彼を見つめるのは“水野つばさ”。
陸上部に所属する高校2年生で、勉強もできるし可愛いし、川田くんとは正反対の存在。でもなぜだか川田くんが気になる模様。ふくらはぎをモミモミ揉みながら川田くんのランナーとしてのポテンシャルを分析したり、なにかと川田くんに話しかける謎のヒロインだ。
ある日、川田くんの高校で校内マラソン大会が開催されることに。教室中に広がる「だりぃ~」の空気。東大を目指す秀才の"高見健吾"がとりわけ露骨に嫌そ~にしていると体育教師の“小池龍一”先生がこんなことを言う。
そうなんだ……! なお、このとき川田くんはクラスの誰よりもニブい反応をしている。が、実際走る距離を見てやっと「エッ」となるのがかわいい。
さて、本番当日。
川田くんは、恥を晒(さら)しまくったスポーツテストのような空気もなくマイペースに走り始める。病弱な弟が小学校の前で応援してくれているはず、だから、小学校の前でだけかっこよく走れたらいいや、と自分の目標を決めているからだ。この辺の優しさもいいんだよなあ……。
で、この日は霧があった。つまり周りがよく見えない。だから川田くんにとってこのマラソン大会は緊張する要素がひとつもない状況だったのだ。
何も考えず、ただただ走り続けて、気持ちが良くて、弟の前でもかっこいい姿を見せることができる。普段の川田くんとは別人。
このマラソン大会で川田くんはぶっちぎりの全校1位を取る。そう、何も取り柄がないと思われていたし、自分でもそう思っていた川田くんには、長距離走の才能があったのだ。
悲喜こもごもの部活デビューと長距離走のうんちくのサンドイッチ
かくして川田くんは駅伝部に入ることに。
例の東大を狙う高見くんも入部。この高見くんも憎めないいいキャラなんだよなあ。ぼーっとした川田くんとの組み合わせが楽しい。
ここから川田くんのランナー人生が始まる……のだが、思い出してほしい。川田くんはずーっと日陰者だった男だ。そんな彼が運動系の部活に参加するとどうなるか?
壁のポスターを見てるふり。泣けるが笑ってしまう。(ちなみに、壁のポスターを必要とする人物がもう1人いる。読んでほしい)
部活デビュー組の川田くん(と高見くん)は、まず「カメさんのようにゆーっくりのーんびり」走るトレーニングが課せられる。
ここを読んで「ハハーン」となったランナーもいると思う。「どういうこと?」と思う話は、すべて「長距離走」につながっているのが本作の面白さのひとつだ。それにしても川田くんと高見くん、やっぱりいいコンビだなあ。こうやってランナーたちの人柄や成長を知ると駅伝を何倍もアツく応援できると思う。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。