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2020.07.04

レビュー

目指すはパラリンピック出場! ブラインドランナーの目となり共に戦う伴走者

何度「結末を先に見ちゃおうか……いやダメだ」と思っただろう。スポーツ観戦をするとき、その試合が熱ければ熱いほどテレビの前ではソワソワしすぎて心がもたない。



あの祈るような気持ちを『伴走者』の2人が駆け抜けるレースでも味わった。

ブラインドランナーの「目」となり、共に走る

『伴走者』は2人のランナーの物語だ。ブラインドマラソンランナーの“内田”と、彼の伴走者である“淡島”。彼らはパラリンピック出場を目指している。

伴走者とはブラインドランナーの「目」となって一緒に走るランナーのことだ。



こんな風に手をロープで繋ぎ、情報を共有しながら一緒に走る。まさに「手の二人三脚」だから、2人は同じスピードで走る必要がある。そして伴走者はただの俊足なお手伝い係ではない。



めっちゃ忙しい! マラソンでは他の選手との駆け引きも必要になる。水分補給やペース配分だって大切だ。それらを担うのが伴走者だ。やることがいっぱい。

つまり、ブラインドマラソンは、とても複雑で繊細なパラメータをたくさん抱えたゲームなのだ。このスポーツの面白さを考えつつ、本作のランナーたちがどんな人物であるかを見ていきたい。ますます好きになるはずだ。

「勝ち」への執着心が強い男と、「いかに戦うか」にこだわる男

まず、ブラインドマラソンランナーの内田について。元サッカー選手で、かつてはヨーロッパリーグで活躍した自己主張強めの悪童系アスリート。事故で光を失ったことをきっかけにブラインドマラソンに転向した人物だ。

たしかにサッカーは90分間ひたすら走るスポーツなので長距離ランと近い気がする。でも、なぜ内田はパラスポーツに転向するにあたって、ブラインドサッカーではなくブラインドマラソンを選んだのだろう。おそらくこの言葉が関係している。



何がなんでも絶対勝ちたい男なのだ。ヨーロッパリーグ時代から「勝つために手段を選ばない」と評されてきた自分の可能性を最大に活かして、ふたたび世界に行くには? 内田が手持ちのカードを並べて考えたときに、ブラインドマラソンのほうが「勝てる」と判断したのだろう。

そんな勝利への執着心が超絶強い内田がパートナーに指名したのが“淡島”だ。上で紹介したページで「ポカン」とした顔を見せる人物。箱根駅伝に出場経験のある元実業団ランナーで、今はエンジニアとして働きつつ大会に出場している。



「勝つこと」よりも「いかにレース運びを設計し、実行するか」に重きを置くアスリートだ。実力はあるのに勝ちへの執着のなさもあって、自分が天下を獲るようなマラソンランナーではないことがわかっている。



この淡島の複雑な表情と内田の小気味いいセリフの対比がいい。こんな正反対の2人が、ロープでお互いの手を結び、パラリンピックを目指して走る。熱いバディものだ。

「恐怖」も「喜び」も共有する

内田の前へ前へと走りまくる姿がとても好きだ。



恐怖や危険がしっかり存在し続けるスポーツに内田は挑んでいる。怖くないわけがないのだ。



そのうえで勝利の障壁になるものは絶対に取り除く。その鋭さは伴走者である淡島にも等しく向けられる。



この容赦のなさ! これは淡島の葛藤のドラマでもある。



内田には淡島が必要だ。内田がいることで淡島は自分が今まで求めていたけれど叶わなかった理想のレースを手に入れる。だから相手を必要としているのは内田だけではなく、淡島も同じなのだ。(あと、作戦の立て方がちょっと内田に似てくるのも良い)

そうやって結びついた2人はパラリンピック出場をかけた国際大会に臨む。



舞台はおそらくキューバのハバナがモデルだ。実際に歩いたことがある。石畳どころかアスファルトもガタガタな街で、何も見えない状態で疾走するなんて絶対に怖い。でも優秀な伴走者がいれば、あの美しい街でブラインドマラソンができるような気がする。

もう、このレースの場面がとても良いのだ。内田~! 淡島~! と応援してしまう。

内田の「勝ちたい」は、やがて淡島に「内田を勝たせたい」と願わせる。そしてもう一段深くてまぶしい世界をこの作品では描く。読み終わった時の心拍数を測っておけばよかった。ああ、いつかパラリンピックを生で体感したい。

伴走者

原作 : 浅生 鴨
著 : 斉藤 羽凧

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レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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