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2020.06.10

レビュー

野球の神が愛するのは、才能か、努力か!? 六大学野球物語『ビッグシックス』

子供の頃から見てきた野球マンガの主人公は、甲子園やプロを目指し、挫折を味わいながらも夢に向かって突き進むザ・青春&スポ根が王道でした。
しかし、『ビッグシックス』はちょっと違います。
主人公は、熱血漢でもなければ爽やかでもなく、類まれな才能の持ち主なのに、それをあっさり捨ててしまった愛すべき変わり者なのです。

下嶋武雄は、国内最難関の東帝大学(通称:東大)に現役合格し、中学時代は全国準優勝投手という華麗な経歴の持ち主。
ただし、「中学時代のオレ 無敵だったんスよ!」「ついたあだ名が 肥後の怪物!」と自分で言ってしまうイタイ男。
そんな下嶋が、高校で野球をやらなかったのは、こんなポリシーがあったからでした。



ところが下嶋は、帝都六大学リーグ万年最下位の東大野球部に入部することになります。

下嶋にとっては「分が悪い勝負」であるはずなのに、なぜ入部したのかというと、
2年生の女性野球部員、竹本忍に一目惚れをしたから。
そしてもう1つの理由は……、



帝都六大学リーグに所属する光英義塾大学で大活躍している早田錬(はやたれん)は、下嶋の中学時代の野球部仲間。

そして全国大会での優勝を逃すことになった張本人でもあります。

竹本忍が出した早田と付き合う条件が「三冠王を獲ること」だと知った下嶋は、それを阻止するために野球部へ、ってかなり単純な男です。まぁそこが下嶋の可愛いところでもあるのですが。

スポーツ漫画で重要なのは、なんといってもライバルの存在。
実は早田も忍が好きで、2人は野球だけでなく恋のライバルでもあるのです。

でもこの下嶋の野球部入部は、ある意味、早田に仕組まれたことでもありました。
それを見抜いた忍の兄に、早田がしゃべるシーンはカッコイイ!!
さすが早田、下嶋の性格がよくわかっていると思うのと同時に、今でも全国大会でのことを負い目に思っている早田を思わず応援したくなりました。

もう1人、若木大学のピッチャー、結城達也も気になるライバルです。
結城は、夏の甲子園優勝投手で、全日本大学選手権、世界大学選手権優勝の立役者。身長が176センチなので、内野手への転向を勧められたにもかかわらず、頑なに投手へのこだわりを見せる男。

これに野球が大好きなのにバント要員でしか自分を活かすことができない竹本忍が加わり、役者は揃った!という感じです。

女性の野球選手という設定は、水島新司さんの『野球狂の詩』が非常に有名ですが、忍はそうしたヒロイン像とはかけ離れています。
だから忍が下嶋に対してつぶやいた「才能を腐らせている」という言葉は、心に刺さりました。

持って生まれた圧倒的な才能を持っているにもかかわらず、それを活かそうとしない奴がいるかと思えば、どうすることもできない肉体的な差で挑戦する権利さえ与えられなかったり、人一倍努力が必要だったりする人もいるわけです。

正直、「才能」という言葉は大袈裟でむず痒いので「素質」や「得意なこと」という言葉に置き換えますが、果たして自分はそれらに気づき、きちんと伸ばすことができているのかと考えさせられました。
下嶋みたいなお調子者に気づかされるなんて、ちょっと悔しい気もしますが(笑)。

『ビッグシックス』は、まだ始まったばかりですが、この先ライバル達はどんな戦いをするのか、そして下嶋はどんなふうに変わっていくのかが楽しみです。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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