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2020.04.19

レビュー

タンザニアの魔女狩り、ミャンマーの紛争の裏で蠢くもの。世界が少しわかる地政学活劇

揉め事の解決にはチセイが要る

「ですよね」と思いながら読んだ。『紛争でしたら八田まで』が見せてくれる世界の解像度がすごく好きだ。あらゆる国と人が揉めに揉めて、「どっちが正義であるか」をバッサリ決めることなんて無理。ですよね。でも解決しないとどうにもこうにも……。

 
BBCやCNNのダイジェストを眺めているときのお手上げな気持ちを、本作の八田さんはチセイ(と、強くて美しい太もも)でもって華麗に収めてくれる。




容姿端麗で頭脳明晰。そしてプロレス技が得意。ずっと大暴れしてほしい。

「言葉も文化も知らないとはじまらない」

主人公の“八田百合(はったゆり)”の仕事は「地政学リスクコンサルタント」。ひらたく言うと「世界を回る解決屋さん」だ。彼女のクライアントは世界中にいて、自分たちではどうしても解決できない「揉め事」を抱えている。
たとえばミャンマー連邦共和国のモンヤン村。日系企業の工場で突如ナゾのデモが勃発して一触即発の状態に……なんで? 待遇もいいし、悪徳企業でもないのに?
工場の社長は彼らとコミュニケーションが取れない。わかる。香港で働く知人が「英語や中国の普通話だけじゃだめ。広東語も覚えないといけない。地元採用のメンバー同士は広東語で話すから」と言っていたが、そう、地元の言葉ってめっちゃ大事なのだ。
で、八田さんもミャンマーでの仕事が決まった後、徹底して勉強する。(過激な勉強方法については読んでほしい。とてもかっこよかった)



 

あらゆる国の、あらゆる「チセイ」を駆使して彼女は戦う。地政学のチセイと、知性のチセイ。このマンガを貫くふたつの要素だ。


 
社長がお手上げな企業紛争にも地政学が密接に関わっている。単なる社内の揉め事が紛争のリスクをはらんでいるのだ。
でも物騒で難しい話ばかりではない。


 
依頼された地に赴けば、その土地の食べ物をしっかり味わい、シズル感たっぷりな感想を述べる。こちらはタンザニアのスープ。美味しそう。



そして、冒頭でも紹介したとおり、八田さんは頭だけじゃななく身体能力も高い。乱闘多数。いいぞいいぞもっと怒れ、と思う。
読みながらしみじみ感じるのは「やっぱり世界って厄介」というところで、登場人物それぞれに事情と思惑があって、わかりやすい悪人がいないのだ。シンプルに解決できるなら誰も困らない。だから八田さんのようにチセイが必要になる。



ミャンマーのラム酒を飲み干す八田さんはどんな解決方法を思いつく? 知らぬうちに世界情勢のあれこれを頭に放り込みながら読んでしまう。頭の中の地球儀がクルクル回る楽しいマンガだ。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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