ヤンキー漫画と聞いて真っ先に何を思い浮かべるかは、世代によって違うと思いますが、『どくヤン!』はそのどれにも当てはまらない全く異質のギャグ漫画です! しかも、思い出し笑いのニマニマが止まらなくなります。
不良高校の中でも一際異彩を放っている「私立毘武輪凰(ビブリオ)高校」に、授業料がタダという理由で転校してきた野辺雷蔵(のべらいぞう)。
この名前からして間違いなくノベライズ好きだろうと思ったら、読書はあまりという極々普通の、というより全く冴えない高校生。
早速、登校初日から“ブッカツ”の洗礼を受けます。
“ブッカツ”とはブックカツアゲのことで、狙われるのはお金ではなく本!!
さすが読書ヤンキーが集う「毘武輪凰高校」。
学校での授業は、1限から6限まですべて「読書」。そして教育理念は、
“読書上等” !!
この暴走族感あふれる四文字熟語にワクワクしてしまいます。
となれば当然、スプレーの落書きも「夜露死苦」かと思いきや、こんなものも。
「団鬼六(だんおにろく)」と「銀色夏生(ぎんいろなつを)」が入ってくるこのセンス!!
ちなみに団鬼六はSMなど官能小説の第一人者で、銀色夏生は80年代アイドルの作詞も手掛けたオシャレ感漂う作家。
こうした随所に出てくる細かい設定に、思わずニマニマしてしまうのです。
そして、ヤンキーのお約束とも言える喧嘩のシーンでは、こんなセリフが……。
てめぇ 何
犯人教えてんだ
殺すぞコラァ!
こんな「どくヤン」にぴったりなセリフってある!?(笑)
さらにヤンキーの定番、うんこ座りでスハスハする“アンパン”はシンナーではなく……。
しかし、こうしたヤンキーは底辺の部類。一本筋が通っている本物の「どくヤン」は、それぞれ得意なジャンルを持ち、それに相応しい名前があるのです。
“ブッカツ”に遭った野辺雷蔵を助けてくれた獅翔雪太(ししょうせつた)は、私小説が大好きな“私小説ヤンキー”。
多くの私小説作家が病に蝕まれたのと同様、時々、吐血します。
同じく私小説ヤンキーに域狭間刻(いきざまきざむ)というのもいて、玉川上水に入水してしまわないかとヒヤヒヤしています。
ほかにも"まんま"すぎて笑ってしまったのが、時代康尚(じだいこうしょう)。彼は、"時代小説ヤンキー"。
橙併次(だいだいぺいじ)は、"レシピ本ヤンキー"。
阿奈沢流人(あなざわるうど)はというと、"異世界転生ラノベヤンキー"。
でも秀逸なのは、“絵本ヤンキー” 夜見木粕男(よみきかすお)。
野辺雷蔵と共に落とした“おむすび”を追いかけ、無法地帯といわれる学校の地下に足を踏み入れてしまうのですが、そこにあったのは……。
このシーンは、悔しいくらい大爆笑してしまいました!
でもビジュアル的に好きなのは、阿符織瞑(あふおりつむる)。
やっぱヤンキーは特攻服(トップク)でなくちゃ!!
しかし彼は、“ブッカツ”よりタチが悪い“箴言狩り”をする極悪非道な男だったのです。
しかし、彼の特攻服に刺繍されていたのは……。
『どくヤン!』を読む前、そんなに本を読んでないのだけれど……という不安がありましたが、毎回、作者たちによるこんな「燐棄斗(リスト)」が付いてくるので全く問題ありません。
ん? 「燐棄斗」!? フランスの漢字表記「仏蘭西」みたいに、リストを漢字で書くとこうなの!?と思った私、やられましたよ。
夜見木粕男のプロフィールに使われていた当て字も「斧髏噴威竜(プロフイル)」。
いやいや読めないから! でも好きだわぁ、こういうの。
すっかり『どくヤン!』に毒された麗撫亜(レビュア)として落書きするなら、もうコレしかないでしょ。「汚喪死露漫画参上!! 夜露死苦!!」。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp