終活のイロハ
毎日毎日、どの香水をつけよう、どのハイヒールを履こう、今年の夏どころか秋冬はどんな服を選ぼう。そう考えながら楽しく暮らしている。だから開けたことのない箱のふたを恐々と持ち上げるようにして読んだ。なにせ1ページ目からしてこれである。
憧れの伯母さん。オシャレでいい匂いがして、「こんなふうになりたい」と思える人だった伯母さん。そう、過去形なのだ。主人公の“鳴海”の伯母さんはもう亡くなっており、しかも孤独死で、晩年は鳴海にとってちっとも憧れの人ではなかった。
あらゆる意味で過去形。そして鳴海は35歳で、独身で、一人暮らし。マンションを買って猫と暮らしている……。
『ひとりでしにたい』は「自分の死」のマンガだ。カラッと明るくて少しブラックなギャグの合間から見えるのは、逃げ場がなくて、途方もない、でも分け隔てのない事実だ。笑いながら終活のイロハを考えてしまう。
柱は1本! じゃあ増やす!?
のっけから「伯母さんの孤独死」という強烈なパンチが出て読んでるこっちが呆然としているうちに、鳴海も当然ショックを受けたようで、とくに我が身を振り返る。自分がもし家で一人で死んじゃったら、どうなるの? っていうか猫(おキャット様と崇めるほど可愛い猫。名前は“魯山人”)は?
……鳴海がまず考えたのは「婚活」。一人で死ぬことが怖いなら、一人じゃなきゃいいんだ! というわけだ。老後という考えたくもない将来の不安を支える柱を、現状の1本から2本に増やすぞ~と意気込んでいたら……、
年下のエリート男子“那須田くん”に理路整然と冷や水をぶっかけられる! なんだこいつ! でも正論!
出るわ出るわ、聞きたくないセリフ。でも事実なんだよなあ……。鳴海は自分が「何も考えてこなかった」ことを思い知らされる。そして、結婚は最良の策でもなんでもないことに気がつく。
そこで自分の「終活」を考え始めます。「ひとりでしにたい」と。
前途多難……!
焦りと不安で馬鹿になりそう
「ひとりでしにたい」とガッツを燃やす鳴海は、考えれば考えるほどダルい話に遭遇しまくる。親の介護、お金、人とのつながり……もはやこのダルさで死んじゃうんじゃない!? という感じだ。でも、ダルかろうがなんだろうが元気なうちに考えた方が絶対にいいのだ。理由はこちら。
元気な時ですらダルいんだから、ピンチのときに対応できる気がしないよ……。
そして、悩ましいのはお金や制度だけじゃない。孤独に死なないためには?
鳴海が目星をつけたのは、仲が良くも悪くもない弟夫婦……。
疎遠にならないように「親身になってあげよう!」と連絡を取ってみるも、なんか大間違いの予感……。
う、うわ~~~~~! ダルいし焦るし不安だしで、なんか馬鹿になりそう!
笑いながらも「老い」と「死」がちょっとずつ整理されてくるような、でもまだ不安でいっぱいなような、でもでも、何も知らないままで何も考えないなんてできる? できない。一人でいても、誰かといても、年をとって死んでしまうから。読むと「怖いー!」と思うけれど、クヨクヨなんてしてる暇はないよなと謎のガッツが湧いてくる。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。