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2020.03.01

レビュー

人種のるつぼになった日本。出会った少年は軍事機密の能力者だった!【本格SFアクション】

私は1980年に生まれました。3歳くらいのときから、漫画を絵本のように眺めてきました。両親も漫画に明るく「漫画ってモノクロの総合アートみたいなものだよね」という環境で育ったので、漫画に触れる機会がたくさんありました。

名作と呼ばれる漫画、うるっと泣ける漫画、涙が出るほど笑った漫画、たくさんの恋愛、たくさんのヒーロー、たくさんの善悪、それ以上のグレー・曖昧な答え。絵、言葉、考え方、漫画は私の中で私の一部として存在しています。私が「漫画の読者」という幸福な人生を選べたことは、生涯の宝物です。

『亜童』の連載が始まったとき、SNSで話題になっていたのを目にしていたので、単行本の発売をとても楽しみにしていました。

本を手にして本の厚みと紙の肌触りに驚きます。

「この本、なんだか懐かしい」

内容を読む前に、最初に入ってきた情報が「懐かしい」でした。

厚手のごわごわした紙。そこに印刷された漫画。めくるときにつるっとした感覚がなく、ぼそっと指に付いてくる。この感じ、ひさしぶりだなぁと。遠い日に読んだ漫画に似ています。

なぜ令和2年の今、この紙でこの漫画を印刷したのか。漫画の表紙の絵柄と合わさって、読む前に私の中の記憶とリンクしてぐわぁぁぁっと情報が入っています。

■謎めいた少年、エイトとの出会い

『亜童』の設定は「日本が正式に移民を受け入れ始めた時代」と公式サイトに書いてあります。街の風景や描き込みは、近未来にも見えるし、昔の九龍城のような混沌さも見受けられます。

物語はトラックに轢かれそうになる少年・エイトが、スクーターに乗っていた女の子・リコに助けられるところから始まります。

遅刻したバイト先のコンビニ。リコは首になってしまいます。ふてくされて路上にいると、先ほど助けたエイトがひとりでいるのを見つけます。

迷子のエイトを交番へ連れて行くリコ。しかし交番で本人確認をしてもエイトのデータは見つかりません。

エイトという名前以外、すべてが不明の子ども。奇妙な事件にも巻き込まれ、ひとまずリコはエイトと共に行動することにします。

お腹が空いてふたりで飲食店へ入りますが、エイトは脱走した子どもとして、命を狙われます。

エイトを捕獲しようとする部隊。銃声が驚く中、エイトの身体は植物になり、自らを守ろうとします。エイトがナニモノなのか、身体が植物になる意味とは……。謎が深まります。

■「あ! 懐かしい」その感覚を楽しめる作品

読んでいて『亜童』の紙面に感じるのは、絵の描き込み具合のエモーショナルさです。著者が何に影響を受けて、何が好きなのか。こちら側の読者を一緒に巻き込んで世界観を作り上げていきます。その不思議な懐かしさが直球で伝わってくる面白さがあります。

コマの割り方も80年代や90年代のSF映画のようで、映像的に進む物語に、描きたくて描いたのだという強い意思を感じました。描きたいから描いたという潔さはエネルギーを持ちます。そこに愛おしさを感じました。

個人的な感覚ですが、作品内で描かれる乗り物が好きです。

古いバス、タイを今でも走るトゥクトゥク、レトロなスクーター(スクーターの人がかぶるヘルメットとゴーグル)、現代っぽいタクシー。羽の短いヘリコプター。「こういうの好きなんだろうなぁ」と、出てくる小物や描き込まれるディティールに、読んでいてニヤニヤしてしまいます。

エイトを追いかける組織、その組織に所属するエイトのような超特殊能力があるレンジ、エイトを助けてくる医師。エイトを逃がすために楯になってくれた少女ノア。

人と関わるなかで、エイトの中に眠る「ナニカ」が目覚めていく。

1巻はエイトとリコの出会いから、エイトの目覚め(超覚醒)前の序章です。ここから物語は大きくうねりながら変化していきそうです。エイトたちの能力が何者であるかも謎が多く、続きが楽しみで仕方ありません。

2巻以降も、このざらっとした懐かしい紙で読み続けたい漫画です。紙の肌触りまで漫画。電子コミックでも、もちろんとても読みやすく面白いのですが、機会があったら、ぜひ紙の質感をお楽しみください。「あ! 懐かしい」に出会えます。ちなみに、このレビューは紙の漫画と電子書籍の両方を読んで書いています。

レビュアー

兎村彩野 イメージ
兎村彩野

AYANO USAMURA
Illustrator / Art Director
1980年東京生まれ、北海道育ち。
日常を描くイラストが得意。好きな画材は万年筆。ドイツの筆記具メーカー LAMY の公認イラストレーター。
著書『万年筆ですぐ描ける!シンプルスケッチ』は英語翻訳されアメリカでも販売中。
趣味は文具作りとゲームと読書。
https://twitter.com/ayanousamura

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