2019年、日本での映画興行収入ナンバー1に輝いた新海誠監督の『天気の子』。そのコミカライズとなれば、否応なしに期待が高まります。
特に映画を観た人であれば、最初のページがどんなシーンから始まるのかが気になるところ。それによって映画をそのままなぞった作品なのか、オリジナルが含まれる可能性があるのか予想がつくからです。
このコミカライズは後者。映画とは違うシーンから始まるので、より一層、期待が高まりました!
高校1年の夏に離島から東京に家出して来た帆高(ほだか)は、新宿のホテル街で男たちと居た陽菜(ひな)を助けます。土砂降りの雨の中、2人が逃げ込んだのは廃ビル。
あの印象的で有名なシーンが、どんなふうに描かれるのだろうとページをめくると……。
映画とは違いモノクロで動かないのに、心の清らかさまで伝わるような美しい陽菜がしっかりとそこに居て、思わず「また陽菜に会うことができた!」と思ってしまいました。
陽菜に特別な能力があると知った帆高は、陽菜と弟の凪(なぎ)の生活費の足しになればと「雨空を晴れに変える」商売を始めます。
ところが「天気の御子」である陽菜は、晴天と引き換えに代償を払わなければならず……。
映画ではリアルな東京の街並みや映像の美しさに引っ張られ、気にはなっていたけれど素通りしてしまった部分がいくつかありました。
その1つが、帆高が家出をした理由です。
陽菜と一緒に居たいという気持ち以外に、なぜ危険を犯してまで頑なに島に戻ることを拒否するのかが正直、私にはわかりませんでした。
しかしコミカライズでは、帆高の居候先でありバイト先の社長でもある須賀と帆高が話すシーンが付け加えられています。
生まれ故郷の島が嫌いなわけではないのに、なぜか息苦しく感じていた帆高に対し、須賀のセリフがかっこいい!
お前はその狭くて美しい監獄に生まれたみたいだけど、その方が案外いいかも知れんぜ。なんせ監獄にいる奴だけが外に出る喜びを知れるんだ
確かな人生経験がなければ、こんなセリフは言えません。一見チャランポランに見えるけど、心の中は温かい男、須賀がここでもいい味出してます。
もう1つ、私自身が映画では追いついていなかったのが、陽菜の心の陰りでした。
これは結末を知っているからこそ、深く感じ取ることができたのかもしれませんが、陽菜の愁(うれい)のある寂しげな表情が、ふとしたところに出て来ます。
陽菜はこのとき、自分の行く末を知っていたんだよねと思うと、なおのこと胸に突き刺さりました。
こうした表情をひとつひとつ確認できるのも、コミカライズの良さだったりします。
そして、すでにお気づきだと思いますが、屋上のこのシーンに、こんなセリフあったっけ?というのが付け加えられています。
もしかしたらこの先、帆高と陽菜のシーンがもっと付け加えられるかも!などと勝手に想像してしまいました。
そうした楽しみもありつつ、でも映画の雰囲気はそのままなのが、またうれしい!!
そして何より、陽菜が可愛くて、愛おしくて、儚(はかな)いのです。
あと、どれだけ陽菜と一緒に居られるのか……。
そう思うと、第2巻が待ち遠しいのと同時に、いよいよカウントダウンが始まるのかという寂しい気持ちにもなりました。
偉大な映画ゆえに、コミカライズで読むことを迷う人がいるかもしれませんが、この
『天気の子』は十分、期待に応えてくれる作品だと思います。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp