そういえば地上では無職だった
『ああっ女神さまっ』を初めて読んだとき、「“ありがたや”という気持ちはコレか」と思った。次から次へと現れる女神たちの美しさと可愛らしさを浴びに浴びまくって、誰にも言えなかったけれど高校生の頃は“ペイオース”になりたくてしょうがなかった。とにかく楽しかった。そんな女神たちにスピンオフ作品でもう一度会えるなんて。まさに「ありがたや」と思いながら『ああっ就活の女神さまっ』を読んでいる。
本作は“就活の”と銘打っている。なので「ベルダンディーが悩める就活生に道を示してくださるのかしら」と思いきや、ベルダンディー本人が就活をしているのだ。
本物だ────っ! 会いたかったよ────! この「1級神2種非限定」っていう乗り物の免許っぽい肩書きがすごく好きだ。
そういえばベルダンディーって地上では無職だったのか……。
褐色の肌が美しい“ウルド”も妹キャラ全開の“スクルド”も元気そうで嬉しい(だが無職)! ちょっと大変そうだけど、ベルダンディーは“螢一”と仲良く暮らしているようでホッとした。ということで、無職な女神さまの麗しい就活の数々をご紹介したい。原作のファンはもちろん、就活で心がささくれ立った経験がある人にもオススメしたい。笑えて元気が出る。
自己紹介がちっとも頭に入らないか、入りすぎる
「働いて家計を助けたい」“ベルダンディー”が、地上でお仕事を求める時。女神さまといえど私たちと同じように就職活動をするらしい。フェアだ。
まず服装。
面接官のリアクションもわからんでもないけれど、ベルダンディーはちっとも悪くない。だって、このひらひらとした美しいお召し物は女神の正装なのだから。ベルダンディーはいつも精いっぱい礼を尽くしているのに、なぜか面接が不出来なのだ。
そして自己紹介。面接官がベルダンディーの美しい服装に圧倒されすぎて自己紹介を聞いてくれないこともあれば、
女神のみが操れる「一音に約5000語の意味が含まれる高速言語」で自己紹介をすることも。「1分でなるべく自分のこと伝えなくちゃ」というベルダンディーの願いにキュンとなる。これ、就活生の願いそのままだ。高速言語で自己アピールは完璧ですねベルダンディー! ……と思っていたのだが。
とっちらかりすぎて頭に入ってこないらしい。歴戦の面接官もぐったり……。そう、本作は、女神さまが就職活動に励むも不採用通知の嵐に見舞われる「まさかのスピンオフ」なのだ。スピンしまくってる。というか、人類まじで見る目なし。採用したら大勝利なのに。この「見る目ないな、もったいない」は、就活を元気よく続けるための大事なマインドだと思う。
就職活動のイロハ、教えます!
もしも女神がエントリーシートを本気で書き直したら? もしも女神がグループディスカッションに参加し、悪名高きクラッシャーに当たってしまったら? 考えるだけで楽しくてワナワナしてくるような爆笑エピソードが詰まっている。
エントリーシートに苦しむ女神さま。(森里家、懐かしい……!)
そして、三女神たちと一緒にちゃぶ台を囲むリクルートスーツ姿の女の子。彼女の名前は“皆藤ふみ”。シリコンバレーに留学経験のある意識高き大学4年生で、面接会場で知り合ったベルダンディーのことをなぜか放っておけない優しい人物。
神々しすぎて面接官からはじかれてしまうベルダンディーを「就活の世界」に導く役割を果たす。いい子。本作は皆藤さんの就活奮闘記でもある。
このベルダンディーの表情と眼差し。まさに無限の神性だ。『ああっ女神さまっ』もこんなふうに吸い込まれそうな瞬間や陽だまりを思い出す幸せなマンガなんだよなあ。
たかが数分しか会って話していない大人から「不採用です」なんてメールを大量に浴びる就活生たちが一番欲しいものを女神さまは持っている。女神さまと就活って相性いい。ありがたや。
さあ、ベルダンディーは就職できるのだろうか。皆藤さんから就活のイロハを教わり、リクルートスーツも美しく着こなしておられるが、「ある特徴」によって不採用になることが多い。それが彼女の持ち味なので、そのまま採用してくれる企業が現れますようにとお祈りしています。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。