どうしよう、これ私だ……
『死なないで!明日川さん』のページをめくるたびに、「あらかわいい」とクスッとしたり、プッと笑ったりしているんですが、心のどこかで「いやーっ!」と顔を手で覆ってジタバタするちっさい自分を感じる。“明日川さん”のお悩みと、イタい気持ちと、ズレに、思い当たるフシがある。
や、私だけじゃなくて、みんなの心のどこかに“明日川さん”がいるんじゃないだろうか、いるよね、いるはず、いなきゃおかしい、絶対いる。いてくれ! 頼むよ!
他人の目が気になりすぎて死にそう
主人公の“明日川玲(あすかわれい)”は高校1年生の女の子。
進学塾の広告ポスターに出てきそうな聡明系の美少女で、実際とても優等生です。クラスメイトの視線や表情からも明日川さんのイメージが伝わりますね。でも、思春期あるあるというか大人でもこれは厄介な問題なりがちなんですけど、「周りからのイメージ」と自分が思い描く「セルフイメージ」が一致していることって、どのくらいあるんでしょう? だいたいズレてます。
他人の視線にとっても敏感なティーンエイジャー、明日川さんの場合は。
かなりこっぴどくズレてます。このズレにズレまくって下方修正しすぎなセルフイメージに、強烈な自意識過剰が加わると、かなり最悪な「そわそわ」が出来上がることに。これが明日川さんの精神を毎日グサグサ刺してきます。で、その辛さがピークに達すると、
「死にたい!」という気持ちでいっぱいに。わりと即ピークが来るので毎話「死にたい!」となっています。しかも死亡方法のバリエーションが豊か。さらに、彼女は頭の回転がとても早いです。セルフイメージと自意識がイカれているだけで。だから、豊かなのは死のアレンジだけじゃありません。
「報道されちゃう!」から緊急特番にジャンプアップします。顔写真のショボさに明日川さんのセルフイメージが滲み出てて笑う。
自意識過剰にドライブがかかりまくっているので「自分が今死んでしまったら、どんなトラブルが起こるか」にもメキメキ想像を走らせるんです。この報道特番も毎回エピソード山盛り。
で、「そんな事態にはできない! 死ねない!」となります。この繰り返し。でも、「過剰すぎるだろー」とか「ないない」なんて私は絶対に言えない。彼女の胸をさいなむ不安たちに、だいたい身に覚えがありすぎるのだ。チクチクするよ。
「1人でご飯を食べるのなんて絶対いや。そういう時はご飯を食べない」と言った女性アイドルが昔いた。一時期、まったく同じ状態になった。アイドルじゃないのに。明日川さんの場合、ぼっちご飯対策も傑作です。こちらになります。
誤魔化す方法にも創意工夫がいっぱい。私も、満員電車の時は誰にスマホを覗き込まれてもいいように、日経電子版を優先的に開いてます! おそろいだね明日川さん!
あー辛い辛い辛い! ……と、自意識過剰かつ引っ込み思案な人が陥りがちな「ぼっちと思われたらキツい」場面がバンバン出てくる。
こんなに毎日頑張ってピンチを切り抜けているのに、ちっとも明日川さんの気持ちは休まりません。妄想にも自意識過剰さにもサバイブ能力にもセンスが光ってるんだけどな。どうしたらいいんだろうねえ。
さて。ここで明日川さんの「周りからのイメージ」を思い出してください。先ほどのメロンパンくわえながら日経電子版を歩き読みする明日川さんを見て、学友の皆さんはどう思っているのでしょう?
「1人だけニューヨーカー」の明日川さん。知らないのは本人だけ。このギャップにめちゃ笑ってしまう。意地汚くなんかないよ。ほんと死なないでね、明日川さん!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。