虐待、貧困、JKビジネス、神待ち少女。そんな闇を描くこの物語、真造圭伍氏の作品を楽しみにしてきた読者にとって、かつてない薄暗さに驚きは隠せないだろう。しかし、そこに新しい境地を我々は見るのだ!
前置きはさておいて。この物語は、JKリフレ、すなわち、「女子高生がマッサージをする」という名目のもと、性的サービスを提供する闇深い現場からスタートする。
未成年との性行為をビジネスとしたこの店を摘発するために登場したのが、主人公の刑事・山田肇だ。仕事への熱意がまったくない、45歳の冴えないおじさん刑事は、摘発された女子高生の1人、海野詩織を目にした瞬間、衝撃を受ける。
山田には、小学生の娘・こずえを水難事故で亡くした暗い過去があった。荒(すさ)んだ目をした16歳の少女・詩織の容姿には、亡き娘の面影に重なるものがあったのだ。
事件の後も詩織のことが頭から離れずにいた山田は、雨の街を傘も差さずに歩く彼女を発見し、思わず追いかける。親のような気持ちで「大丈夫?」と声を掛ける山田に対し、詩織の口から出てきた言葉は、「おじさん家に泊めてくれませんか」「そういうことをしてもいいから」だった。
愕然とする山田の表情から、摘発現場にいた刑事だと気づいた詩織は脱兎のごとく逃げ出してしまう。そして、「神待ち少女」となり、家に泊めてくれる男をツイッターで探すのだ。
詩織にもまた、家に帰りたくない暗い事情があった。シングルマザーの貧困家庭で育ち、母親から激しい虐待を受けてきたことで、家出を繰り返してきたのだ。荒れた家の中の様子や母親への恐怖感が生々しく描かれる。
物語の中では、親切を装って神待ち少女を狙う「泊め男」の存在や、それを当たり前のように受け容れる詩織の姿も描かれている。表には出なくても、この国のどこかに、確かに存在する闇が浮き彫りになる。
虐待を受け、「もっと違う普通の幸せがあること」を知らない少女。そして、娘を救えず、「もっと違う未来があったのに」と悔恨を抱える中年男。諦めきれずに詩織の家を訪ねた山田は、母親から門前払いされるが、2人を再び巡り会わせたのは、河原に住むボロ切れのようなノラ猫だった。
少女は、「汚い、臭い」と言われ、誰も近寄らないこの猫に自分を重ねて可愛がっていた。そして、偶然にも餌をやっている山田に遭遇するのだ。おそらくはこの作品のタイトルにも深く結びついているだろう。
詩織はわずかに心を開き、「私ももーすぐ死んじゃうのかな」と本音を呟く。が、山田の顔に付け入る隙を見つけるや、すぐに「家に泊めてくれ」と迫るのだ。
赤の他人で、未成年。そして自分は刑事。躊躇する山田の前から、詩織は再び姿を消す。
必死で探そうと街を奔走する山田をよそに、彼女の行く先に待っていたものは……。
諦めきれない後悔を抱えた男と、誰も信用しない少女。人生に絶望し、投げやりに生きてきた2人の、剥(む)き出しの魂が触れ合うそのとき、物語は大きく動き出す。
出口のない、救いのない世界を描きながらも、どんどん読み進めることができるのは、真造氏ならではの、どこか温かく、どこか軽やかな絵のタッチのおかげだろう。また、少女の顔としたたかな女の顔を行き来する詩織の表情も必見だ。彼女が抱える闇の深さと、この世代特有の危うさ・純粋さがにじみ出る表現力。そこに我々は、この国の暗がりを生きる少女たちのリアルを垣間見るのだ。
レビュアー
貸本屋店主。都内某所で50年以上続く会員制貸本屋の3代目店主。毎月50~70冊の新刊漫画を読み続けている。趣味に偏りあり。
https://note.mu/mariyutaka