働き方が多様化していくなかで、連日ニュースでも出てくる言葉「社畜」。「会社+家畜」から生まれた造語ですが、良い言葉ではありません。調べると、奴隷のように働く姿を揶揄(やゆ)した言葉なのだそうです。胸がチクっとくる方もいるのではないでしょうか?
なかなかセンシティブな言葉がタイトルにあるので、初めて見たときはちょっとドキッとしました。しかし、表紙の絵はとてもポップ。どういう漫画なんだろうと、とても不思議な気持ちになりながら手に取りました。
『社畜とギャルが入れ替わりまして』は、「社畜会社員」と「ギャル女子高生」というまったく違う環境に生きるふたりが入れ替わってしまう漫画です。入れ替わることでお互いの知らない世界を体験していく。そのなかで感じる想像との違いや本音が絡み合います。
27歳男性会社員と17歳女子高生が入れ替わる!?
榎本ひろしは旅行会社で働く27歳。独身ひとり暮らしです。朝出社したら、ひたすら仕事。そしてほぼ終電で帰る日々。おとなしく優しい性格に真面目さがプラス。そのため社内でも仕事をフラれがちです。なかなか上手く断れません。ちなみにバレンタインデーが誕生日と、設定を読んでいて発見しました。
上原リコは17歳。女子校に通う高校生です。実家で両親・妹と暮らしています。明るく楽観的で元気な姉御肌。曲がったことが嫌いでちゃきちゃきしているけど、誰にでも優しくできる強さがあります。誕生日が11月11日。1が多いですね。
年齢も10歳違う。女子高生と会社員。性格も生活もかけ離れたふたりは、偶然にもマッチングアプリで出会います。(※このマッチングアプリは漫画上の架空の設定です。現実では18歳以上でないとマッチングアプリは使えません)。アプリでマッチングしたまま、疲れて眠ってしまった榎本。目が覚めると、なんだか身体に違和感が。
マッチングアプリで同期した女性と入れ替わってしまいます。しかも、思っていたより若い。起こしにきた母親とのやりとりで、自分が「高校生」であると知ります。現実を掴みきれないまま、とりあえず制服に着替えて学校へ。
見た目はリコ・中身はひろし。あべこべな肉体と魂のままの学校は、懐かしくどこか未知の世界。クラスメイトも、自分が生きている世界とは別の場所のように感じながら、なんとかやり過ごします。
昼休みになり、自分の置かれている状況を少しずつ把握し始めるひろし。すると学校へ「見た目はひろし・中身はリコ」がやって来ます。ついにマッチングした相手と初対面。
元に戻るまで、自分たちらしく過ごしていこう
なぜか自分では知らない服を着て登場です。休み時間を利用して校舎裏でふたりは情報を共有します。
「見た目はひろし・中身はリコ」はスーツを着て会社へ行ったと報告。しかし、なぜか今、私服で目の前にいる。心配をよそに問いただしてみると……。
会社をクビになったと報告を受けます。ビックリする「見た目はリコ・中身はひろし」。
ふたりで何があったか、何を感じたかを話していきます。マッチングアプリを解除しようとしてもできず、ふたりで出した答えは、元に戻るまで自分たちらしく会社員とギャルをしていくということ。そう約束します。
ただし、「見た目はひろし・中身はリコ」からは条件が。
1.ちゃんとメイクすること
2.身体をベタベタ触らないこと
3.リコになりきること
4.恋愛禁止
条件をのみ、お互いにお互いらしく生きながら相手の人生も生きる。
会社の不条理にリコの真っ直ぐさでおかしいとものを申したり、ひろしは学校や親友の麻美ちゃんと関わっていくことで恋心に気付いたり。入れ替わったからこそわかることがあり、理解しようと努力する。ふたりは少しずつ成長していきます。
「働き方問題」を考えるきっかけになる作品
ふたりの成長や、リコの大人の世界へ啖呵(たんか)を切る姿が気持ちよく、勢いもあってグイグイ読めます。ストーリーだけでなく、全体に他の漫画の小ネタがたくさん隠してあってクスッと笑えたり、読んでいてニヤッとなったりしました。
男女が入れ替わる漫画は多々あります。『社畜とギャルが入れ替わりまして』は男女の入れ替わりと、スピード感あるテンポの中に、今の時代の働き方の問題を考えるチクッとしたきっかけが隠れています。決め台詞はどれもカッコいいのですが、私のお気に入りはやはりこのカット。
「JKでも知ってますよ 人を傷つけることをしちゃいけませんよって」
リコの強さに救われる人はたくさんいます。とても魅力的で、少女漫画と少年漫画の中間のようなカッコよさで好きなキャラクターです。
レビュアー
AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。