ヤンデレはレバー
ヤンデレと同じ夢は見ない。思春期終了後そう決めた。というか、思春期がちゃんと完結したのって最近なんじゃ……そう考えると吐きそうになる。だからこそヤンデレに対して用心深く生きている。ノーモア、ヤンデレ。
なのに、だ。阿部定の事件調書は本棚にきちんと収まっているし、心の映画ベストテン裏部門には「ベティ・ブルー」が居座り続けているし、キャット・ウーマンよりハーレイ・クインが好きだし、ミオヤマザキの新譜は一応チェックする。今回紹介する『踊るリスポーン』も瞳孔ひらきっぱで読んだ。
今リアルに目の奥がジンジン痛い。
つまり、全然ノーモアじゃなくて、選り好みしながらペロペロと食べ続けています。ヤンデレはお肉の部位で言うとレバーです。クセの塊だけど表現する人の腕次第で極上の味わいになる。だから私には『踊るリスポーン』がたくさんの人たちから愛される確信がある。
このヤンデレは「おいしい」。ふさふさのツインテールに散りばめられた黒いハートがいとしい。限界までかわいくてポップで笑っちゃうのに、嗚咽がもれそうになる。
リスポーン=死んでも死んでも復活する
主人公の“壇ノ浦調子(だんのうらちょうし)”はリスポーン体質の男の子。「リスポーン」とはゲームの攻略用語などでよく聞く言葉で、死んでも復活できることを意味します。ド下手プレーヤーが操作するマリオがクリボーと正面衝突してもマリオはフワっと戻ってきますよね、アレです。
壇ノ浦くんの場合マリオよりも好条件な仕様で、どうも無制限でリスポーンできます。
なので気軽に命がけで人を助けたり、なんなら遅刻理由にも活用する始末。学校も「あーハイハイ」という感じで彼のリスポーン体質に慣れっこ。
そんな壇ノ浦くんに命を助けてもらったのがヒロイン“山崎声(やまざきあん)”。この事故がキッカケで壇ノ浦くんに恋をしてしまいます。
声ちゃんは、自分の重たい愛をグイグイ捧げて捧げて捧げすぎて頭がイかれて愛する相手を刺しちゃうタイプの女の子。いわゆるヤンデレちゃん。
ふつうなら刺すと血塗れで「完」ですが、本作の場合は壇ノ浦くんがリスポーンするので世界がポップに続くんですね。この最高な世界を「設定の勝利」とか気安く言いたくない。だって、そこに盛り付けられたお肉たちこそが最高だから。
女の子の血の味がする
血を流して死ぬのは毎回壇ノ浦くんなのに、本作はなんでだか声ちゃんの血の味がずっとする。
1コマ1コマに詰まった情報が鋭くて痛い。この密度と振れ幅が異常。
ギャグも、女の子が捧げる愛も、殺気も、ぜんぶ等しくギュンギュンに詰まってます。これはとても大切で、1ページに少なくとも3回くらいはクスクスポイントがあるから(ヤバい時は全コマ)、私たちは声ちゃんの奇行をも「かわいー」と笑えるのだと思う。
壇ノ浦くん以外の男の子に馴れ馴れしくされた時は容赦無くゲロ(虹色)を吐き、
ヤンデレが殉じる愛とその真髄を叫ぶ声ちゃん。「かけひき」なんてくそくらえ。心が洗われちゃうよ。
多分このコマはマジで一生忘れないと思う。私まで血まみれになりそう。
おまけページもキレキレ。(声ちゃんの髪型にも重い愛が詰まっています)
こんなふうにヤンデレの愛を上品にどぎつく描いたラブコメって読んだことない。ネオンカラーのハートと刃物がずっと飛び交ってて目がチカチカする。そんな世界を血だらけで支えているのは、壇ノ浦くんです。声ちゃんの重たい愛と包丁をヒョイっと避けては避けきれず死にまくり、ムクリと復活を続けます。
なんだかんだで声ちゃんの身を案じてるし。声ちゃんの愛が冷めないのも、声ちゃんには壇ノ浦くんが必要なのもわかったので、私は声ちゃんに賛成です。刺そ刺そ。
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レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。