みんな何を考えながら私についてきてたんだろう
「国産RPGならドラクエ派かFF派か」という話は、「犬派? 猫派?」並みにテキトーに使えるアイスブレイクに見えるのだが、悲しいかな一瞬でその話は終わる。先に広がるものが少ない。大人になればなるほど、好きであればあるほど「そうですか~」くらいしか返す言葉がなくなるのだ。宗教と似ている。(メガテン派が現れることもある)でも、どちらも「画面上にあるもの以上」の何かを感じさせる名作ゲームだ。
私は節操なく遊ぶ派なので、どちらにも尻尾を振る。「あんな暗くて甘酸っぱい会話の直後によくこんなギンギンな魔法を繰り出せるな~」と思う「FF」のアゲ感も好きだし、レベル30のかすかな倦怠感のなか、馬車に押し込まれた私の“2軍の僧侶”は今何を思っているのだろうかと想像しながら進める「ドラクエ」のチル感も好きだ。1軍が全滅して馬車から飛び出すくらいしか出番のない彼らにもきっと物語はあるはずだし、と。
『女戦士ってモテないんです!』は、まんま後者「ドラクエ」な世界のラブコメだ。勇者(=私)に黙々と付き従い、己の特性を活かしながら働き続けるとある“女戦士”が「モテない」とブツブツ考えていたとしたら。デートのつもりで向かった先が武器屋だったとしたら。
泣けてくる。なんかごめんな。
恋をして、頑張った
本作の主人公は“女戦士”。彼女のパーソナルな名前は語られません。ニューゲーム選択時のように、適当に心の中で付けてあげるといいと思います。彼女だって生まれた時から女戦士なわけじゃありません。
健気だな~。最後の一言のまっすぐさを私は笑っちゃいけないなあと思う。笑うが。で、彼女は頑張るんですよ。めちゃ頑張る。頑張りまくって、晴れて、どこに出しても恥ずかしくない「デキる女戦士」となります。そして憧れの勇者のパーティに加わるのですが……この辺で、察しのいいゲーマーは気づくはず。そんな「デキる女戦士」に、我々は、どう接してきただろうか?
強くてちょっとやそっとじゃ死なないから、そのまんま稼働させていたはずです。指示は「ガンガンやってくれ!」のみ。こういった「RPGあるある」がずっと続きます。
“魔法使い”はスグ死ぬから回復はこまめに行うし、どうせ魔法使いを連れてくならジイさんじゃなくて女の子の魔法使いを選びがち。
女戦士は宿屋で「こんなはずじゃなかった」と1人反省会をします。「弱くなったら勇者と一緒にいられない」ことをわかってるあたりも健気。わかる、弱くなったら外す。
男の子歓喜なシーンも完備。スライムで「あること」をしようとして大変な目に遭ってます。
おねがい、気づいて勇者さま
……こんな風に全てのネタのベースが「RPGあるある」なので、読んでるこちらは王道RPGの様式美をベースに楽しめます。そして、さすがに「勇者気づけよ?」という気がしてくる。でも、ここでも様式美が効いてくるのだ。
いったいどこまで「俺も同じ気持ち」なのか全く定かじゃないが、勇者は「俺達のチカラを必要とする」場所に向かうようにできています。そう、彼にも名前はなくて「勇者」という記号で生きているんですね。そして、本作の世界は、恋愛シミュレーションでもエロゲーでもなく、王道RPGなのだから、そりゃこの展開になっちゃうんです。そういう記号の世界の中で「はみ出た恋」をしちゃっているのが本作の女戦士……。これがFF的世界だったら、違っていたと思うのですが。悲しいねえ。
ヒラヒラなキャバ嬢ドレス風の服を着ても、
ゲームの進行上「あり」か「なし」かで評価をします。だから、「男は、自分の手に負える女のことを“かわいい”と思う」といった次元の話ですらないんですよね。彼女のせいじゃない、構造としてモテない。地獄!
さ、そんな出口のない王道RPG的世界のなかで恋をしてしまった女戦士の次なる作戦は……
お約束の「転職」です。転職するときのアノ「戻れない」緊張感を知っているだけに、このシーンは嫌な予感がめっちゃするんだよなあ……。
こんな健気な女戦士の冒険(恋)は、どうなっちゃうんでしょう。
できれば実らせてほしいなーと思います。2周目くらいに。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。