“お腐れなさった女子”は豊か
「君は、腐女子なの?」。社会人1年目、ゲーム会社での新人歓迎会で隣に座った先輩からそう尋ねられた。私は全く腐女子ではなかったし、それが何者なのか恥ずかしながら詳しくわかっておらず、「ちがいます」とだけ答えた。先輩は残念そうだった。
今ならわかるのだが、腐女子=男性同士の恋愛を描いたBL(ボーイズラブ)ものを嗜(たしな)む人々は、豊かで無限だ。間違いなくエンタメ業界と相性がいい。
前述した歓迎会では、同じ先輩から3度ほど「腐女子じゃないの?」という質問を受けた。酔っ払っていたというより、「職場に腐女子が来ると面白いだろうな」と心底期待されていたのだろう。
『まぶささ』の主人公“笹川あきら”は、高校2年生にしてすでに立派な腐女子。
その豊かに咲き誇る腐女子マインドと、かわいらしい性格がナイスだ。本作の大切な要素です。ゲラゲラ笑いながら「豊かだわ」としみじみしてしまう。
腐女子の豊かさ:すぐ妄想する
腐女子の習性は何と言っても「すぐ妄想する」ところ。笹川さんもゴリゴリの腐女子的妄想をします。本屋さんで偶然見かけた怖そうなクラスメイトの“馬渕くん”が、実は美少女アニメオタクだったことを知り、さらにBLコーナーを歩いているだけで、コレ。
本人すら持て余す頭の回転の速さ。すっごい楽しそう。『まぶささ』は、このお腐れ妄想ガールの笹川さんと、見た目ヤンキー男子(でもオタクでいい奴で勉強もできる)の馬渕くんを中心にテンポよく繰り広げられる学園コメディです。
この身長差もいいんだよなあ。
腐女子の豊かさ:めげずに妄想する
見た目ヤンキー男子な馬渕くんがオタクだと知った笹川さんは、馬渕くんとガンガン仲良くなろうとします。(オタクたちの、コンテンツをきっかけにガ──っと交信をして地球規模で仲良くなっていく感じ。あれは本当に良い)でも時には「きもちわるい」と言われることも。
なんの攻撃も通じない無敵さと、「イケる」と思ったら即妄想する体力。笹川さんは常にこの調子です。お強い。
この強さは架空のものじゃない。試しに本屋に行くとわかる。普通の本屋さんでもBLもの専用の棚(しかも大きめ)があるのだ。ビッグマーケット。田舎にも必ず配備され、しかも豊富という点では、アダルトビデオの「たわわ」さに似ている気がする。
笹川さんをはじめとする腐女子の愛とお財布に支えられ、すくすくと拡大しているBL。もはや「婦女子に……あ、腐ってない方のです」とわざわざ言わなきゃ会話が通じないくらいだ。たとえ「きもちわるい」とか言われても「知っとるわい」という感じなのだろう。明るいぜ。こんなに体力のある人たちに愛されたら、そりゃ成長しちゃうよ。
テンポがめちゃいい
『まぶささ』は4コマ漫画ではないのだが、1ページのコマ割りと「型」が綺麗に整っていて、毎ページほぼ「4コマ目がオチ」となっている。だからテンポよくずっと笑ってしまう。
お気に入りは「4話 返事になやむ!」だ。笹川さんと馬渕さんが初めてメッセでやり取りをする回。オタクとオタクがスマホで初コンタクトを取る。面白くならないわけがない。
どっちの反応も、めちゃめちゃわかる……。オタクは常に過剰(かつ、頑張ってお気遣いをする)。この後に続くやりとりも「わかる」の連続だ。
さらに、「型」が整っているおかげで、こちらのシーンのように「この瞬間!」みたいなところがスローモーションに見える効果も。
よかったね、馬渕くん。
全員キャラが濃すぎて(馬渕くんのとなりに座っている馬渕姉もヤバい)どうしようと思うのだが、テンポが良いのでポンポン読んでしまう。こんなに毎日が楽しいなら、腐女子、なりたい。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。