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2018.12.04

レビュー

ぼっち×コワモテのハジメテ青春LOVE!! 恋とダンスで『僕らが愛を叫ぶとき』

「#踊ってみた」≠「#踊った」

「#踊ってみた」や「#歌ってみた」の「みた」が、ニコ動時代から妙に気になる。「みた」の後に続くはずの「よかったら見てください。コメント大歓迎」あたりの長ったらしいセリフをカットしただけかもしれないが、「踊った」じゃなく「踊ってみた」で言葉を止めるあたりに、配信主の緊張感や自意識や、それらを超える衝動が匂ってきて、心に余裕がないと再生できない。その生々しさと鋭さに、見てるこっちが負けてしまうのだ。


『僕らが愛を叫ぶとき』の、世界に「好きなもの」と「自分」をおずおずと差し出して景色がひらけてゆく感じは、とても眩(まぶ)しくて、しみじみ愛(いと)しい。同時に、ああこんな気持ちでみんな踊っていたのかもなあ、と私がクリックしなかった動画のサムネイル画像たちをぼんやり思い出す。もったいないことしちゃったかも。

“布団の中の自分”が本当の姿

主人公の“繭子”は、あがり性でぼっちの15歳。友達がいなくて、家で布団にくるまって過ごすのが一番の楽しみ。


わかる! そんな繭子はアイドルグループ“KBF47”が大好き。(名プロデューサーの“夏元さん”が手がける女子アイドルグループ)



大好きなKBFの動画をみているときは、一番うれしくて、生き生きできて、こんな笑顔になっちゃう。



KBFの踊りだって練習しますし、だいぶ上手に踊れます(家で、1人でなら)。

ある日の昼休み、他の同級生は友達とお昼を食べるなか、ぼっちの繭子は校舎の裏でひとりKBFの動画を見ています。で、思わず踊っていると……




クラスのコワモテ男子"大羽"くんに一部始終を見られてしまいます。大羽くん、アイドルばりにかっこいいな。(しかも最新鋭のアイドルのビジュアル)

「笑われる……!」とパニックになる繭子。でも、実は大羽くんもKBFのファンだったんです。


ああもう私はこのページが全コマ好き。怒涛の勢いで大好きなものをウッカリ語っちゃって「ヤッベー!」と思って、でも「わかる」と相手に言ってもらえて……という流れも理想的だし、とにかく繭子の顔と仕草が可愛い。

本作は、踊りの描写はもちろん、繭子(と大羽くん)の表情と仕草がすごくいい。



動きや表情のライブ感がセリフと同じように感情を語っていて、繭子たちのことがすごく好きになる。



ということで、繭子はKBFつながりで「はじめての友達」ができます。


変わりたい

で、「#踊ってみた」です。大羽くんと友達になり、繭子の毎日は一気に楽しくなって、とうとう「#踊ってみた のライブ配信をやる」という大目標ができてしまいます。ぼっちで、あがり性だった15歳が! 著作権のことも真面目に考えながら!




「人の目とか気にせず、大羽くんと、KBFのことをもっと話したい」という衝動は、繭子にとってとんでもなく大きいことで、布団とKBFが全てだった繭子の世界を変えるのに十分なパワーがあったんです。大羽くんが「踊ろうよ」って言ったんじゃなく、繭子が自分で思いついて決めたところにも、繭子の「変わりたい」気持ちのすごさが感じられる。この後に続くダンスの特訓は、私の中ではほぼデートだから!




待ち合わせの雰囲気も、練習場所のチョイスも、大羽くん完璧だよ……。「恋」や「彼氏」という言葉を繭子はまだ使っていないけれど、そこがまたよくて、少しずつ何かが育ってほしいなあと応援したくなる。この先も絶対楽しい。

読んだあと、アイドル的な音楽が聴きたくなって、はじめて欅坂46を聴いてみることにした(もっとも踊りが激しそうなアイドル、というイメージ。私の世界には“夏元さん”はいないの)。で、今まさに聴いているんですが、繭子のような女の子がこの向こうで踊っているような気がして、世界がキラキラして見えて、ずっとリピート再生している。たぶん、踊る繭子は本当にいる。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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