♪プチョヘンザ、プチョヘンザ~♪ この言葉の意味と使い方、ご存知でしょうか?
英語で書くと、Put your hands up. (プット・ユア・ハンズ・アップ)。
直訳すると「手を挙げろ」なのですが、音楽シーンでは「盛り上がっていこうぜ!」と観客をあおる感じで使われます。
と知ったかぶりをしましたが、HIPHOPカルチャーに疎(うと)い人間が、ラッパーが出てくるこの漫画についていけるのか?という心配は、最初の数ページで吹き飛びました。
なぜなら主人公である丹沢すだちが、なんともキュートなラッパーだったからです。
高校に入学した丹沢すだちは、金髪にグリーンの瞳。キャップにパーカーのフードを被せ、胸には大きなクロスのペンダントというバリバリのラッパースタイルで、隣の席の十文字大輔にいきなりラップで挨拶をします。
しかし、最初からつまずき……
肝心のホームルームの自己紹介では、「……丹沢すだち……」と言うのが精一杯。実はすだちは、韻は踏めても会話は不可能。ラップでなければ他人とコミュニケーションが取れない、あがり症のコミュ障だったのです。
メガネに七三、詰め襟カッチリ、ガリ勉タイプの十文字君は、そんなすだちが気になって気になって仕方ありません。といっても女性としてではなく、もうほとんど親戚のお兄ちゃん状態。すだちが何か仕出かすのではないかと、ついつい話しかけてしまうのですが、今更、聞けないHIPHOPカルチャーについても、すだちに質問してくれます。
たとえば、HIPHOPとは何か?
えっ、音楽のジャンルでしょ、と思いますよね。ところが、HIPHOPとはDJ、MC、ブレイクダンス、グラフィティを4大要素とする総合的な文化を表すのだとか。グ、グラフィティ? 私はすでにここで躓(つまず)きましたが、グラフィティには落書きという意味があるので、壁の落書きなどを表します。
そしてよく聞く、B-BOY、B-GIRLの「B」は何のことかというと、ブレイクダンスの「B」。また「サグ」は悪のこと、「ビーフ」はモメること、「レイム」は中途半端や不十分、「ライム」は韻という意味です。
さらに、キャップのタグを外(はず)さないで被るのは、「新品」または「盗品」をアピールするためで、サイズシールを剥(は)がさないのもHIPHOP スタイル!
No way!
マジで!?
と思わず左手をフレミングしたくなりましたけど。
厄介(やっかい)なことに、ここまでくると年甲斐もなく、自分でも韻を踏みたくてウズウズしてきます。
丹沢すだちみたいに、ちょっとしたことをラップで言えたらカッコいいかもと思っていたら、普通の小説を読んでいても、ついついラップ調で読んでしまう自分がいて思わず苦笑い。丹沢すだちに接すると、どうもラップが伝染(うつ)ってしまうようです。
十文字君の場合は、夢にまですだちが出て来る始末で……。
そんなすだちの前に突然、現れたのは、同じ高校に通う、隠れHIPHOP育ちの会津まい子。実はすだちとは中学も一緒で、すだちを傘泥棒と決めつけた因縁の相手。
中学時代のすだちは、思ったことも言えないメガネをかけたダサい子だったのですが、3年の時を経て会津まい子にMCバトルを挑み、見事勝利。
なにげない高校での日常生活から生まれる学園ラップ。今後、丹沢すだちがどのように変化していくのか、そしてどんな「ライムを踏む」のか楽しみです。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp