小学校の時に仲が良かった人たちのことを、堂々と「友達」と呼べる人って、どれくらいいるのでしょうか。実家に帰った時に、たまたま近所のイオンモールで見かけて立ち話をするとか、同窓会の時に顔を合わせるとか、その程度の人も多いんじゃないかなと思います。
みんな、ずっと足並を揃えて生きることはできません。ライフステージとか、環境とか、趣味とか、それぞれの道を歩みながらも繋がり続けるにはどうしたらいいんだろう? そもそも、人間関係って無理してでも続けるもの?
『金のひつじ』を読みながら、そんなことをぼんやりと考えていました。本作は、小学生の頃にタイムカプセルを一緒に埋めた友達同士の物語です。高校2年生の冬、両親の離婚を機に、幼少期を過ごした田舎の街に戻ってきた三井倉継(みいくらつぐ)。かつてこの土地で一緒に遊んでいた仲良しグループのみんなに、再会を望む手紙を送ります。
・根が明るく、ハードロックが好きな女の子・継
・内気でおとなしいけれど、イラストが上手な空
・優等生で、昔からリーダー的存在だった優心
・引っ越してしまった継に、何度も手紙を送っていた、優しい朝里
約束の塔の下に集まった4人は、ファミレスで他愛もない昔話と近況報告をします。笑顔で語り合う様子は、当時と同じ間柄のように見える。でも、水面下でいつの間にか歪みができていたのです。
実は1巻、空が自殺を試みるシーンからはじまります。不審に思われないように、練炭と一緒に、バーベキュー用の肉もレジへ持っていく。これから死ぬという時に、他人からの見え方を気にしてしまう。ここに空の生きづらさがあるんじゃないか?と思わせます。自殺とバーベキューって、対極にあるものですよね。学校で強烈ないじめにあい、どうしようもなく追い詰められているけど、本当は生きたいんじゃないか。
乗り捨てられた廃車の中で、練炭をたく空。そんな時に、助けに来たのは継でした。大切にしていたギターでフロントガラスをぶち破り、空を救出します。目には大粒の涙をこぼしながら。
自分の可能性や存在意義を見いだせていないばかりか、とにかく自責的な空。未遂に終わった自殺も、人の気を引くためにした行動ではありません。それでも「自分のために、友達がひとりでも泣いてくれた」という事実に、彼はただ感動します。
たまに「結婚式に来てくれる人ではなく、自分のお葬式で泣いてくれる人こそが本当の友達」なんていう人がいます。その説でいうと、継は空にとっての“本当の友達”だった。追い詰められていた空に、光がさしていきます。
ストーリーの本筋について触れるのはここまでにしておきます。1巻では、友人関係のいざこざやいじめなど、重苦しい展開が続くんですが、その中でもそれぞれの生活が丁寧に描かれていて、ほっとするんです。
例えば、自殺未遂まで追い詰められていた空にも、家庭内には絶対的な味方がいる。おばあちゃんは、ちゃんと彼の顔をみて、しっかりと肯定してくれている。
両親が離婚した継もそうです。ただ不幸なわけじゃない。家族とはしっかり絆がある。いろんな困難に遭遇しながらも、目の前の生活ときちんと向き合っている。妹をお風呂に入れて、ストーブに灯油を入れる。
ストーリーの核は別のところにあるんですが、こういう細かな描写に都度安心させられる作品です。作者はファンタジーものを長年連載していた方なのですが、こんなにリアルに高校生の生活や心理描写ができるなんて!と、驚かされます。
友人関係は、今の積み重ねで続いていくもの。ずっと変わらない友情があると信じていたいけれど、結果は死ぬまでわからない。1巻の重苦しさは、夜明け前の闇なのでしょうか? 4人の関係がどうなっていくのか、楽しみです。
レビュアー
OL/小沢あや ライター。ウートピ連載「女子会やめた。」「アイドル女塾」のほか、キャリア・ライフスタイル系のメディアを中心に執筆中。
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