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2017.12.23

レビュー

【ストーカー現行犯】警察のように逮捕できる『私人逮捕』に人生賭けてます。

刑事訴訟法第213条を通称私人逮捕という。

この設定だけでもすでに「面白い!」と唸ってしまうのがこの漫画のすごいところです。

主人公の麻木蓮二は、元警察官であり、現在はストーカー逮捕を目的に生きる私人となる。彼を変えてしまったのは、警官時代に妻と子どもをストーカーに惨殺された事件だった。


果たして麻木の目指す「私人逮捕」は、社会にはびこるストーカーへの復讐なのか。はたまた世直しなのか。自分の中にある家族を守れなかった後悔なのか。彼を動かす底知れないエネルギーと破天荒な解決策には、いつもどこか孤独を感じます。

そんな主人公麻木の宿敵は個性の強いストーカーたち。麻木との激しいバトルを軸に物語は進みます。マンガボックスで連載中で、スピード感がある絵は男前な描写でグラフィックデザインのようなクールさ。風を切るように画面を走るシャープな線は読み手に爽快さを感じさせます。とにかく画面内の描写と黒いベタのコントラストのバランスが上手いです。


私のお気に入りの蹴りのシーンです。スパッとしてキレッキレで、かっこいい。

今回の第1巻は、「アイドルになりたいおじさんストーカー」「自称アーティストストーカー」「依頼人の盗聴元彼ストーカー」「ドS剣道警察管理官」「ポエム好き元軍人ストーカー」と文字にすると濃すぎるキャラたちと麻木は戦います。

この漫画の面白さのひとつに、麻木という主人公が従来の少年漫画の型にあるような明るい無敵ヒーローではなく、少し影があり、人間味のある心に不器用な男であり、ときに犯人たちにボロボロにされてしまうところにあります。傷つく人も傷つける人もみんな人間。そして、傷つく人たちを救う人も、また人間。


はたして光のヒーローや善悪だけが世界を裁けるのか? この漫画はそうでもない世界で物語が進みます。もしも太陽が元気で笑顔のヒーローを象徴するなら、麻木は月明かりに生きるヒーローなのかもしれません。どれだけの憎しみの中に生きても麻木は犯人を殺すのではなく「逮捕」することを信条にしています。どんな罪人にも生きて償わせる道を残します。勝ち負けでは割り切れないものがある。そこが麻木の大切な「人」のとらえ方なのでしょう。

自分を傷つけてでも誰かのために動く。無敵でも万能でもないひとりの男が、これから描かれて行くであろう「本当の信念」のために。


漫画のストーリーは短編的なストーカーたちとの戦いをメインに進みますが、作品を通して1本の大きな軸としてあるのは、麻木の妻や子を殺した犯人の痕跡を追いかけること。特徴的なハートのようなマークが度々登場しますが、これから先このマークが、どうストーリーに絡んでくるか。楽しみです。



オムニバス的に好きなところから読んでも面白いし、大きな漫画の道筋として犯人を追いかけても面白い。オンライン配信がベースになっているので2つの軸の進み方のスピード感に読者を飽きさせません。気分で好きなところから読めます。

ストーカーで描く人間のこじれた感情の行き着く先にある「執念」という感情。粘着質で思い込みでできている歪んだ考え方は、漫画でありつつ、決して全ての台詞がフィクションではない気がして読んでいました。この世界にはごく普通の顔をしているけれど、歪んだ言葉を持つ人たちがいます。紛れ込んだこの世界には、きっと麻木が必要になる。

キャラクターの登場数が多い漫画なので、今後、どう伏線が回収されてくか、キャラ同士がどこで絡んでいくか、麻木がどんな成長をしていくか、犯人はなぜ麻木の妻や子を殺したのか。ハートのような謎のマークの意味も気になります。


多くは語らない麻木。深まる謎に物語はまだまだ続きそうです。暗闇にどの角度で光が射すか。どんな癖のあるストーカーキャラが今後出てくるか、目が離せません。さて次は誰が捕まるか。次巻が待ち遠しいです。

レビュアー

兎村彩野 イメージ
兎村彩野

AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。

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